かつて、ホンダは、VTECに代表されるNA(自然吸気)の高回転型エンジンにこだわっていた。
特に1990年代はライバルメーカーがターボ車を増やしていくなかで、ホンダだけは、突き抜けるように回る自然吸気エンジンこそホンダのアイデンティティとばかりに、ターボエンジンなんてありえない状態だった。
ところが、返す刀で、現在のホンダエンジンは主力のガソリンエンジンはターボエンジンとなっている。そこで、ホンダはなぜNAエンジンを捨て、ターボエンジンに方針変更したのか?
また、ホンダのエンジンはNAがいいのか? それともターボがいいのか、モータージャーナリストの岡本幸一郎氏が解説する。
文/岡本幸一郎
写真/ベストカー編集部 ホンダ
ホンダのNAエンジンはどんなエンジンだった?
もともと「エンジン屋」を自認しているホンダだけに、かねてから印象的なエンジンが多いが、特徴はいわずもがな、おしなべて高回転型であることだ。
1968年生まれの筆者は、昔のことは知識でしか知らないが、1967年登場のN360からして、超高回転型で高出力な性格が顕著だったという。
そのあたりはオートバイメーカーでもあるホンダらしい側面。また、長らく強制空冷式にこだわっていたのも特徴だ。
のちにホンダのエンジンの代名詞となった「VTEC」は、1984年の「NCE(New Concept Engine)計画」で開発が始まり、研究員たちが「NAでリッター100馬力」を目指したところから生まれた。それを初めて実現したのが、1989年発売の初代インテグラだ。
ホンダNAエンジンの名機とは?
すべて乗ったことがあるわけではないが、素晴らしいものが多々あったなかから筆者にとって印象深かったNAエンジンをいくつか挙げたい。
まず、乗ったことのない人にとっては意外かもしれないが、1991年発売の4代目プレリュードSi系の2.2L、直4VTEC、H22Aだ。
最高出力は200ps/6800rpm、最大トルクは22.3kgm/5500rpmとなる。デートカーとして名をはせた3代目から、なんともいえない不格好なデザインになったことをちょっと残念に思っていたのだが、エンジンだけは凄かった!
やや大きめの排気量により低回転域も力強く、回すと軽やかなエキゾーストサウンドを奏でながら、まさに「絶品」といえる吹け上がりを楽しませてくれたものだ。
そしてもちろん忘れるわけにはいかないS2000だ。S2000には2LのF20Cの時代と、ボアを変えずストロークを拡大して2.2L化したF22Cの時代があり、スペックはF20Cが最高出力250ps/8300rpm、最大トルク22.2kgm/7500rpm。
F22Cが最高出力242ps/7800rpm、最大トルク22.5kgm/6500~7500rpmと、F22Cのほうが若干ピークパワーは上で、許容回転数も9000rpmから8000rpmに下がったのだが、乗りやすさでは常用域のトルク特性に優れるF22Cが上。
それにそもそも実はF22Cだって、F20Cに比べるとなりをひそめたとはいえ、世にあるエンジンのなかではではかなり高回転型のキャラクターである。
そんなわけで個人的には、よりドライバビリティに優れるF22Cのほうが好みなのだが、より歴史的価値が高いのは、9000rpmまで回せるF20Cといえそうで、難しいところだ。
いっぽう、タイプRのなかでは、DC2型インテグラタイプRの95スペックを挙げたい。その他のタイプRももちろんよいのだが、同じB18CでもインテRの95スペックの初期モデルだけは別物。
リッターあたり実に111psを実現した最高出力200ps/8000rpm、最大トルク18.5kgm/7500rpmというスペックは以降のインテRと同じか大差ないが、手組みでポート研磨や面研やフルバランス取りを行なったというだけあって、吹け上がり方が最高に美味しい。それはもう衝撃的だった。NAを極めたエンジンに違いない。
あとは初代NSXのエンジンフィールはやはりそれなりに印象的だったものの、コスパとしてはどうかという思いもなくはないので、ひとまずここでは触れずにおきたい。
ホンダはなぜターボエンジンに代えたのか?
1980年代、日本にターボ全盛の時代が訪れても、ホンダはシティやレジェンドなど一部に限りターボを設定していたものの、どちらかというと静観していた。
当時、F1では1500psともいわれたターボエンジンを手がけ黄金期を迎えていたが、市販車はNAがメインだった。
ところが現在では高回転型のNAエンジンでならしたホンダまでもターボ化を進めている。
これはなにもホンダに限った話ではなく、ドイツをはじめ世界中の自動車メーカーがそうしている。
逆に日本のメーカーで、NAのほうがよいとするマツダや、ダウンサイジングターボに出遅れた感のある一部メーカーが、いまでもNAがメインのラインアップとなっているが、効率的に出力を稼ぐためには、ターボ化が手っ取り早いのはいうまでもなし。
特に、かつては前人未到のリッター100psにこだわり、それが高く評価されたことで、その路線を踏襲していたホンダも、本来的にはとにかく動力性能において他社よりも圧倒的に優位に立つことを是としており、それを実現するためにはターボ化は必然だったと考えられる。
いっぽうで、環境性能も求められる時代が訪れ、動力性能との両立を図る上では、ターボチャージャーがあったほうがやりやすいので、ホンダも現時点における最良の手段としてターボ化を進めているものと思われる。
ホンダターボエンジンの名機とは?
ホンダにとってはNAがメインの時代にターボを積んで出てきたシティターボや、レジェンドのウイングターボが「名機」といえるのかどうかはわからない。
特に後者は、ホンダ自身も「F1で圧倒的な速さを誇ったホンダのターボ」として、フラッグシップモデルのレジェンドにウイングターボと名付けられた、可変ノズルターボによりターボラグを抑えレスポンスを向上させ、NAエンジン並みの燃費性能と優れた走行性能を両立させたという、技術的にも注目すべきものではあった。
そして最近またターボエンジン搭載車が増えているところで、上はNSXから下は軽自動車まで、あるいはステップワゴンやシビックやCR-Vなどに搭載される1.5Lターボ、欧州シビックに用意され、今後次期フィットなどに搭載予定の1Lターボなどもあるわけだが、現時点で名機と断言できるのは、やはりシビックタイプRのK20Cだろう。
それもタイプRとして、ターボを初めて搭載したひとつ前の4代目よりも、現行の5代目のほうが印象としては上。
過給圧を緻密にコントロールできる電動アクチュエーターの採用などによる驚くほどのハイレスポンスに加えて、エンジン制御の改良や6速MTのローレシオ化、軽量シングルマス・フライホイールの採用により、感覚としては10psどころではないほどパワフルになっていて、下から上まで全域がパワーバンドのようなインパクト満点のエンジン仕上がっている。
ニュルブルクリンクサーキットの量産FF車世界最速の座を目指するからには、それなりのエンジンが必要であり、まさしくそれを実践したということだ。
ちなみにシビックタイプRが達成したFF車最速タイム、7分43秒80は、2019年5月、メガーヌR.S.トロフィーR(7分40秒100)によって破られた。
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