30年以上改良されつつ現役を続けた、エンジンとフレームの最終形態ST250Eタイプ

30年以上改良されつつ現役を続けた、エンジンとフレームの最終形態ST250Eタイプ

 ST250Eタイプは、スズキが2003年に発売したネオクラシックカテゴリーの250ccバイクST250をフューエルインジェクション化したモデルだ。空冷のSOHC単気筒エンジンを搭載し、シンプルでバイクらしいデザインをコンパクトな車体にまとめていた。

 
文/後藤秀之 Webikeプラス
取材協力/レッドバロン
 

始まりはDR250SとGN250E

 ST250Eタイプに搭載されるエンジンは、1982年に登場したオフロードバイクDR250SとクルーザースタイルのGN250Eに搭載されたものがベースになっている。ST250Eタイプは2017年まで製造されていたので、このエンジンは実に35年もの間現役だったことになる。1978年から2021年まで製造されたSRには敵わないが、30年以上使われれば充分ロングライフだったと言えるだろう。このエンジンは空冷4ストロークSOHC4バルブというベーシックなエンジン形式だが、2つに仕切られた燃焼室を持つTSCC(2過流燃焼室)を採用し、燃費性能を高めるとともに扱いやすいトルク特性を生み出していた。

 

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スズキ初の4ストローク250ccオフローダーとして1982年に登場したDR250Sは、4バルブのTSCCエンジンやリアのリンク式のフルフローターサスペンションなど当時最新の装備を与えられた高性能モデルだった。

 

 

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GN250Eは、DR250Sと同じエンジンを搭載して同時にデビューしたクルーザーモデル。このフレームとエンジンは、改良を重ねつつST250Eタイプまで30年以上キャリーオーバーされることになる。

 

 
 
 

ネオクラシックバイクブームの到来

 250ccクラスのネオクラシックの先駆けはホンダのGB250クラブマンであり、1983年の登場以来モデルチェンジを重ねながら作り続けていた。発売当時はレーサーレプリカブームへと続く高性能な多気筒エンジンバイクが台頭しており、シングルエンジンのGBは「おじさん向け」的な扱いを受けていた。孤高の存在であったGBに時代が追いついたのは1990年前後で、SRのカスタムを発端とするネオクラシックバイクブームがきっかけだ。各社がこのカテゴリーのバイクに注目し始め、250ccモデル開発に力を入れ始めた。ホンダはGB250クラブマンを1989年にモデルチェンジ、ヤマハは1992年にVツインエンジンを搭載したSRV250を発売、同じ1992年にカワサキからもメグロのジュニアシリーズをモチーフにしたエストレヤが発売された。そしてスズキからは1994年に件の空冷4ストロークSOHC4バルブを搭載したクラシックスタイルのロードモデル、ボルティーが発売された。

 

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1983年に発売されたホンダGB250クラブマンは、レーサーレプリカ全盛の時代に250ccクラスにおいて孤高の存在として存在。1990年台に入って、ネオクラシックブームで世間がその存在に追いついたと言えるだろう。

 

 

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カワサキが1992年に発売したエストレヤは、メグロジュニアのデザインを現代的にリファインし、セパレートタイプシートを採用した初期モデルは250ccネオクラシックモデルブームの起爆剤となった。

 

独自のポジションを築いたボルティー

 ボルティーはエンジンだけではなく、フレームや足回りなどもGN250Eをベースにしていた。デザインはヨーロピアンテイストを感じせさつつ、独特の形状の燃料タンクやシートを組み合わせた個性的なもの。そして、車体部品の多くをGN250Eベースとしたことで、エストレヤの新車価格45万円に対して29万8,000円という低価格を実現していた。ボルティーは車体がコンパクトでポジションか楽に設定されていたこともあり、女性ライダーにも受け入れられ、ネオクラシックカテゴリーとしては成功したモデルとなった。1989年にモーターショーで発表されたコンセプトモデルSW-1の市販バージョンもGN250E系のフレームとエンジンを使用、1998年に登場したクルーザータイプのマローダー250も、このフレームとエンジンをベースにしていた。さらに1990年代末にストリートトラッカーブームが訪れると、このエンジンとフレームは2000年発売のグラストラッカー/ビッグボーイにも流用された。

 

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1994年に発売されたスズキ ボルティーは、GN250Eのフレームやエンジンなどをほぼそのまま流用していた。ヨーロピアンテイストを感じさせる独自のデザインと、コンパクトで扱いやすい車体で幅広い層のライダーに長く愛された。

 

 

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1992年に登場したSW-1は、モーターショーで発表されたコンセプトバイクのデザインを纏って登場。GN250Eのフレームやエンジンを使用していたが、新車価格は68万8,000円と当時の250ccバイクとしては非常に高価であった。

 

 

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クルーザータイプのマローダー250はGN250Eへの先祖返りとも言え、最も正当な後継車種なのかもしれない。日本では1998年から2010年まで製造され、海外向けとしては2012年までラインナップされていた。

 

 

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2000年にはストリートトラッカーブームの流れに乗り、ボルティーをベースにしたグラストラッカー/ビッグボーイが登場。ボルティーとはまったく異なるイメージに仕上げられており、38万4,000円という新車価格で当時の若者たちに受け入れられた。

 

スタンダードバイクとして愛されたST250シリーズ

 ボルティーは2004年に生産中止となり、2003年から販売の始まったST250へとそのポジションを譲ることとなる。2000年代においてネオクラシックはカテゴリーとして確立されており、ベーシックなバイクとして一定のユーザーが存在していた。ボルティーからST250へのモデルチェンジでは外装デザインが大きく変更されたのに加え、エンジンがそれまでの4バルブから2バルブへと仕様変更されている。このエンジンの2バルブ化によって高回転域でのパワーよりも実用域での扱いやすさを強化し、スポーツ志向のエンジンから実用系エンジンへとシフトしている。ルックス的にも2本出ていたエキゾーストパイプが1本となり、エンジン周りはすっきりとした印象になっている。また、耐摩擦性や熱伝導率を高めた高速メッキシリンダー(SCEM)も採用するなど、エンジン本体に大きく手が入れられた。ボルティーではフロント18インチ・リア17インチであったホイールサイズは、前後18インチに変更され、スリムになったタンクやシート周りと相まって全体的にスマートな印象を受ける。2004年には各部にメッキ加工されたパーツをあしらい、キックスターターを装備したST250Eタイプが登場。また、ST250Eタイプでは、セルフスターターとキックスターターを併用するため、点火方式がフルトランジスタからCDIへと変更になっている。

 

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2003年に登場したST250は、ボルティーをベースによりスタンダードなヨーロピアンデザインを採用。後にキックペダルを採用したST250Eタイプをラインナップに加え、ネオクラシックバイクブームを戦った。

 

 2008年には強化された排出ガス規制に対応するためにフューエルインジェクションを採用し、マフラーも触媒付きのものへと改められた。ST250Eタイプに採用されていたキックスターターは廃止されて点火方式はフルトランジスタに再度変更、モデルとしてはST250Eタイプのみとなった。ST250Eタイプは2017年に再び強化された排出ガス規制に対応することなく、兄弟車のグラストラッカー/ビッグボーイと共に生産中止となった。GN250Eの系譜はこの年で途絶えることとなり、その30年に渡る長い旅路に終止符が打たれた。

 

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フューエルインジェクション化されたST250Eタイプは、スズキの空冷250cc単気筒エンジンの最終形態と言える。長い歴史の中で熟成されてきたエンジンと車体は扱いやすく、ビギナーライダーにもおすすめ。

 

 

20240525_ST250

排出ガス規制の強化に伴ってフューエルインジェクション化され、ST250Eタイプのみとなる。外観や装備に大きな変更はないが、最高出力は20PSから19PSへとダウン、キックスターターは廃止された。

 

 

20240525_ST250

ST250搭載時に2バルブ化されたエンジンは、エキゾーストパイプは1本出しとなる。19PS/7,500rpmを発生するシンプルな空冷単気筒エンジンは、コンパクトな車体の中央で存在感を放っている。

 

 

20240525_ST250

元々はスポーツエンジンとして開発されたこのエンジンは、30年以上の時間を経てベーシックなエンジンとして使い続けられた。バイクのエンジンでこれほど長い間現役を続けたエンジンは数少ない。

 

20240525_ST250

メーターはスピードのみとなる単眼タイプで、必要最低限かつ実用的なデザインのコクピットを演出。シンプルであることは、この時代のネオクラシックバイクの美徳とされていた。

 

20240525_ST250

ボルティーよりもスマートな印象を受ける燃料タンクは、ボルティーと同じ12Lの容量を確保。この2009年型はぼかし塗装を採用し、高級感のある仕上がりになっている。

 

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ボルティー時代から継承する前後セパレートタイプのシートは、ループ状のシートレールの後端を見せるデザイン。こうした流行も取り込んだ各部のデザインは、ST250をワンランク上に見せた。

 

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極めてシンプルなステップ周りは、GN250Eから受け継ぐ。コストダウンできる部分はできるだけ落とし、価格の面でも魅力的な車両造りをするのはスズキが得意とするところだ。

 

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