ヤマハ発動機が開発した「パフォーマンスダンパー」は、近年になってバイク用の適合車種が大幅増加中の注目アイテム。ヤマハ車用はワイズギア、他メーカー用は一部車種を除きアクティブが市販している。フレームに装着されたこの短い棒が、いったいどのような効果を生み、どんなライダーにオススメの製品なのか、詳しく解説しよう!
生産本数大幅増で累計300万本突破!
バイクメーカーとして世界で活躍するヤマハ発動機(以下ヤマハ)が、10年以上にわたるクルマのシャシー技術研究を経て開発し、2001年に300台限定販売されたトヨタ・クラウンアスリートVXに世界初の技術として投入されたのが「パフォーマンスダンパー」。その後、トヨタやレクサスなどの量産車にも採用されている。
そして、この技術をバイク向けに転用した製品が、TMAXの純正オプションパーツとして2011年に登場。当初は「パワービーム」の名称だったが、2018年に「パフォーマンスダンパー」となり、純正アクセサリーやケミカルなどを手がけるヤマハグループ企業のワイズギアが、ヤマハ純正アクセサリーパーツとして車種ラインアップを拡充してきた。さらに2021年には、国内外の幅広いブランドを取り扱い、自社オリジナルブランドの開発と販売も広範囲に展開するアクティブに、ワイズギアがパフォーマンスダンパーの供給をスタート。これにより、ヤマハ以外の車種に適合する製品も登場することになった。
ヤマハは、2024年2月にパフォーマンスダンパーの生産累計本数が300万本を達成したことを発表。2016年11月の100万本達成後、2020年1月には200万本を記録しており、この10年弱でこの技術が急速に広まっていることがわかる。
パフォーマンスダンパーってどんな仕組み?
パフォーマンスダンパーを簡単に分類するなら、「二輪車体制振ダンパー」ということになる。じつは走行しているバイクのフレームは、タイヤと路面の摩擦やギャップ通過の衝撃などに起因する大きな力が外から加わることで、ごくわずかに変形している。このとき、一般的な二輪車用フレームは金属製なので変形に対する減衰性が低いので、固定振動数で変形を繰り返そうとするのだ。例えば、小排気量車や旧車などで高速巡航しているときに、ヨレや振られを感じたことがある人もいるかもしれないが、この原因のひとつにもフレームの変形が挙げられる。また、ライダーがそこまでの影響を体感していなくても、フレームの変形はハンドリングに影響を与えているのだ。
そこで効果を発揮するのがパフォーマンスダンパー。ステーを介してこのダンパーをフレームの1ヵ所に装着すると、たわむ速度が緩やかになり、速やかに減衰されるのだ。オイルダンパーは高圧窒素ガス封入式で、サスペンションなどに使われるダンパーと似た構造だが、大きく違うのは、パフォーマンスダンパーはわずか1mm以下のストローク量(変位量)である点。μm単位で安定かつ最適な性能を発揮できるよう、さまざまな技術が導入されている。
ヤマハ以外のユーザーにも、安定性アップの効果を!
バイク用のパフォーマンスダンパーは、ヤマハ車用の純正アクセサリーパーツはヤマハとワイズギアがときに協力しながら、ヤマハ車用以外のアフターマーケットパーツはワイズギアがアクティブにダンパーを供給し、基本的な技術データを共有したうえでアクティブが製品開発している。アクティブにヤマハ車用以外のパフォーマンスダンパー開発を託すことになった理由について、ワイズギア開発部の鈴木洋平さんは、「この素晴らしい技術を、ヤマハ車以外のオーナーさんにも体験してもらい、みんなでもっとバイクライフを楽しんでいただきたいという想いがありました」と語る。
また、同じくワイズギア開発部の森斗志輝さんは、「パフォーマンスダンパーは、ステーを介してフレームに装着しますが、ライディング時に足などと干渉せず、ダンパーの効果を発揮できる位置を選ぶことはもちろん、カッコよく見えることにもこだわって装着位置を検討しています」と話す。「パフォーマンスダンパーの本体は、長さこそ同じですが、減衰力設定が異なる数種類があり、ステーの板厚により特性も変わるので、開発時はどうバランスさせるかが難題」とのことだ。
ちなみに、これまでヤマハやワイズギアに届いたユーザーからの意見として、「パフォーマンスダンパーを装着したら、燃費がちょっと悪くなった」というものがあるらしい。当然、このダンパーはエンジン性能になんらかの影響を与えるものではなく、重量増といってもせいぜい1kg程度の話で、燃費に悪影響を及ぼすとは思えない。そこで開発陣は、「振動軽減や安定性の向上で乗りやすくなったことで、スロットル開度が自然と大きくなった」という仮説を立てている。燃費悪化は、それだけ効果がある証拠なのだ!
ボルトのカラーひとつで効果が変わっちゃう!?
ヤマハ以外の車種に適合するパフォーマンスダンパーは、現在のところアクティブが開発を手がけている(アクティブ以外のブランドで市販される製品は、アクティブとの共同開発)。ワイズギアがアクティブに白羽の矢を立てた理由としては、自社オリジナルブランドが多彩で開発体制が充実していることに加えて、構造が似ているサスペンションの部門もあることなどがあるようだ。初期段階で、開発に必要となるデータや技術をワイズギアとアクティブで共有。以後アクティブが市販する製品については、使用するダンパーの減衰力やステーの装着位置と形状など、仕様はアクティブが決定し、ステーなどを製作している。
アクティブでサスペンション開発部の主任とシニアエンジニアを務める宇田知憲さんは、新たにパフォーマンスダンパーを開発するときの流れを以下のように説明する。
「まずは、知識と経験をベースにフレームにステーを装着する位置を検討。2~3種類の候補をつくり、これを吟味してステーを試作し、このステー形状ならこの減衰力という大まかな予想はできるので、本体を装着してまずは走ってみます。しかしそこからは、トライ&エラーの繰り返し。ステーの厚みや形状、本体の減衰力など、とにかくいろいろ変更しておいしいところを探します。数字ではなく感覚で評価する製品なので、敢えて効果が強すぎくらいのところまで試して、そこから戻して調整するなんてことも。試作と実走テストを繰り返すため、1機種用を仕上げるのに少なくとも2ヵ月以上かかることも」
ちなみに、ステーをフレームに装着する際には、ボルトにカラーを組み合わせているが、「カラーの素材だけでも、乗り味に変化が生まれてしまうんです」とのこと。例えばアルミ合金の場合、素材が持つ振動吸収性がスチールやステンレスと比べて高く、ダンパーの効果が薄まってしまうようだ。このような細かい検証の繰り返しにより、アクティブ社内におけるパフォーマンスダンパーに対する知見はさらに高まっている。
で、装着すると乗り心地はどう変化するの?
パフォーマンスダンパーの装着により体感できる効果は、大別するならふたつ。「振動の伝達低減」と「ハンドリングの安定性向上」だ。アクティブがショーモデルとして製作したホンダ・GB350Sで試したところ、ダンパーを装着していると、停車状態でブリッピングしたときに、手のひらやお尻や足裏に伝わる振動が減る。GB350Sの場合、元からシングルエンジンとしてはかなり振動が少ないのだが、それでも違いがわかるのだからスゴい。イメージとしては、伝わる振動の“粒”が丸くなった感じ。雑味がないパルス感が持ち味のGB350エンジンが、よりクリアになる。
走行時も振動低減の効果はあるが、それよりもさらに感じやすいのはハンドリングの違い。そもそも、今回の車両にはアクティブが取り扱うハイパープロの前後サスペンションが導入されており、ノーマルよりも軽快かつしなやかに旋回できるのだが、パフォーマンスダンパーの装着により、さらに落ち着きが加わった。今回はサーキットでの試乗だったので、わざと段差のある縁石に乗り上げながらコーナリングしてみたが、ダンパー装着時のほうが車体挙動の乱れが収束するのも早い!
コメント
コメントの使い方