取材協力:バイク王つくば絶版車館
VTRは1980年台に爆発的に売れたVT250Fをそのルーツに持ち、特徴的なトラスフレームを持つスポーティなネイキッドモデルだ。今回紹介する2009年にインジェクション化された最終モデルは、伝統のVTシリーズ最後(※2024年現在)のモデルとなった。
文/後藤秀之
NRの血を引くV型2気筒スポーツエンジンを持つ「VT」シリーズ
ホンダの歴史に「VT」の名前が登場したのは1982年のことだ。水冷4ストロークDOHC4バルブ248ccのエンジンを搭載した初代「VT250F」に搭載されたMC08E型エンジンは、4ストロークエンジンでWGPに挑んだNRの技術がフィードバックされた。最高出力は35PS/11000rpmと2ストロークエンジンのRZ250(35PS/8000rpm)に並び、6速トランスミッションや油圧式クラッチなどが採用されていた。1984年に登場した2型においては角形断面のダブルクレードルフレームに、40PS/12500rpmまでパワーアップされたエンジンを搭載し、フレームマウントの大型カウルが装着された。
1986年に登場した3型ではエンジンに大幅に手が入れられ、ボア×ストロークがMC08型の60×44mmから60×44.1mmに変更されて排気量は249ccに、エンジンの型式もMC15E型へと変更された。このMC15型は1986年型で43PS/12500rpm、クラッチはこの型からワイヤー式へと変更されている。このMC15E型エンジンは、今回紹介するVTシリーズの最終形態となるVTRの最終モデルとなるとなる2016年型まで使われることになる。
新しいデザインと、インジェクション化されたパワーユニット
今回紹介するVTRは「STYLE I」というグレードであり、これは2009年にモデルチェンジしてインジェクション化された際に設定されていた。「VTR」という名称は1997年に登場し、スチール製のトラスフレームを採用したネイキッドモデルである。2009年のモデルチェンジではフレームやエンジンなどのコンポーネントは引き継ぎつつインジェクション化することで排出ガス規制に対応、ボディワークは大きく変更された。この「STYLE I」ホイールカラーがブラックで、アキュレイトシネバーメタリックのサイドカバーとテールカウルを採用している。「STYLE II」はホイールカラーがゴールドとなり、マットレイシルバーのサイドカバーとタンクと同色のテールカウルが採用することでより高級感を出したグレードとなっている。
フューエルタンクのデザインが一新され、先代モデルには無かったサイドカバーが取り付けられた。テールカウルは左右に分割されたカウルがテールランプを挟む左右分割タイプとされた。シートは先代よりも着座席スペースを前側に20mm拡大することでライディングポジションの自由度をアップ、角を落とすことで足つき性も向上させている。
エンジンはホンダが誇る電子制御燃料噴射装置「PGM-FI」を、演算処理能力を新設計の32bitプロセッサーECUで制御。環境性能を高めつつ最適な燃料噴射と点火時期のコントロールすることで扱いやすさや実用燃費の向上が図られている。ミッションは先代から引き継ぐワイドレシオの5速で、ギア比もそのまま引き継がれている。吸気系は新設計のスロットルボディに、空気流入量をコントロールすることでアイドリング時のエンジン回転数の安定化や指導性の向上に寄与するIACV(Intake Air ControlValve)を備える。エアクリーナボックスも新設計されて容量が6.2Lから6.4Lへと拡大、新設計の前後等長エアファンネルなども採用されている。
2in1タイプのエキゾーストシステムも一新されており、プリキャタライザーをエキゾーストパイプの集合部に、メインキャタライザーをマフラー内に搭載。キャタライザーの装備に伴って材質はステンレスへと変更され、集合部のプリキャタライザーの手前にはO2センサーが取り付けられている。
トラスフレームを継承しつつ、各部を最適化
フレームは先代から引き継ぐスチール製のいわゆるトラスフレームで、別体式のピボットブラケットを介してエンジンの後端部にスイングアームを結合させるピボットレス構造を採用している。シート形状の変更や荷掛けフックの増設によってシートレールは新設計されており、フレームとの結合部分の材質や構造を見直すことでフレームとシートレールの剛性バランスが見直されている。
ホイールは前後17インチの5スポークタイプキャストホイールで、タイヤはフロントが110/70-17、リアが140/70-17を履く。ブレーキは前後油圧ディスクタイプで、フロントは片押しの2ポット、リアは片押しの1ポットのキャリパーが採用されている。サスペンションはフロントに41mm径の正立タイプフロントフォークで、リアはモノショックタイプとなる。
各部の細部に渡る変更によってより上質で安心感のある走行性能を得たVTRは、ハーフカウルを装備した「VTR-F」や前後サスペンションに専用セッティングを施した「Type LD(タイプ・ローダウン)」などのバリエーションを加えつつ、2016年モデルまで生産が続けられた。
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