クラシックレーサーを思わせる装備を全身に纏ったスポーティシングル、スズキ テンプター

クラシックレーサーを思わせる装備を全身に纏ったスポーティシングル、スズキ テンプター

 SRブームから生まれたネオクラシックブームは、他メーカーからネオクラシックスタイルの新型車を発売させてひとつのカテゴリーとして確立された。特に1990年代に各メーカーは250cc、400ccクラスの新型車を開発し、スズキが400ccクラスに投入したのがテンプターだった。

文/後藤秀之 Webikeプラス
 
 

サベージのエンジンを受け継ぐシングルスポーツ

 エンジンの鼓動感や爆発力を体全体で感じられる単気筒エンジンは、多気筒エンジンが台頭してきてからは主にオフロードバイク用として発展していた。スズキはこの単気筒エンジンにTSCCと呼ばれる独自のバルブシステムを組み込み、高性能なSOHC4バルブエンジンを開発していた。1986年に発売されたクルーザーモデルであるLS650サベージには、このTSCCを採用した650ccの単気筒エンジンを搭載していた。このサベージに搭載されたエンジンはボア×ストロークが94.0×94.0mmというスクエア設定であり、最高出力は30ps/5500rpm、最大トルクは4.5kg-m/3000rpmであった。1987年にはボア×ストロークを88.0×65.2mmへと変更し、排気量を396ccとした普通自動二輪車LS400サベージが発売された。このLS400サベージは1997年まで製造されるロングセラーモデルとなり、このエンジンを流用して1997年に登場したのが今回紹介するテンプターである。1997年と言えばSRのカスタムブームが盛り上がっている時期であり、それを起因とする各社のネオクラシックバイクのラインナップが揃いつつある時期であった。

 

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テンプターのエンジンベースとなるシングルエンジンを積んだサベージは、400ccと650ccの二本立てで発売されたクルーザーモデルであった。

 

 

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テンプターはサベージが生産中止となる1997年にデビュー。サベージの写真と比べて見ると、エンジンの基本形が同じであることが確認できる。

 

 

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ネオクラシックブームの火付け役となったのがヤマハのSRシリーズだ。1985年型からフロントブレーキをドラムに変更し、メーカーとしてもクラシック路線へと舵を切った。

 

 
 
 

美しいヨーロピアンスタイルと、ベーシックなバイクの良さを持つ

 テンプターは1950〜1960年代のヨーロッパ車に影響を受けたフレームや車体デザインを持ち、トラディショナルなスポーツバイクスタイルに仕立てられていた。エンジンは先述した通りLS400サベージからの流用で、サベージのエンジンスペックは最高出力24ps/7000rpm、最大トルク2.7kg-m/4000rpmという仕様に対して、テンプターは27ps/7000rpm、最大トルク3.0kg-m/5000rpmへと若干高回転化したものが搭載されている。ホイールサイズはフロント18インチ、リア17インチで、H断面リムを採用したスホークホイールを採用。ブレーキ前後ともドラム式だが、フロントにはハブの左右にドラムブレーキがセットされるダブルツーリーディング式ドラムを採用して充分な制動力が確保されている。サスペンションもコンベンショナルな正立タイプのテレスコピックタイプフロントフォークと、ツインリアショックの組み合わせである。

 

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撮影車両は2000年式で、ミラーやハンドルなどが変更されている。クラシカルでシンプルなデザイン、存在感のあるエンジンなどが魅力的だ。

 

 

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リアビューではループフレーム風に処理されたグラブバーが存在感を示す。リアフェンダーは金属製で、質感の高さを感じさせる。

 

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ハンドルが低めのものに変更されているため、身長170cmでのライディングポジションは少し前傾した感じになる。ステップは自然な位置にあり、ヒザの曲がりは標準的だ。

 

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シート高は780mmで、体重65kg程度のライダーであれば両かかとがべったり接地する足つき性。

 

 

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想像しているよりもスムーズなエンジン特性で、ブレーキの制動力も高いため、思ったよりもスポーティにライディングできる。

 

先駆者「グース」の苦悩

 このテンプターの発売前、スズキはグースで一度シングルエンジンのスポーツバイクにチャレンジしている。1991年に発売され、250ccと350ccのあったグースだが、上級モデルの350はオフロードモデルDR350譲りの油冷4ストロークSOHC4バルブ単気筒エンジンを、スチール製のトラス形状ダイヤモンドフレームに搭載。アルミ製スイングアームや倒立フロントフォークや、前後ディスクブレーキなど現代的なスポーツバイクであった。このグース350はSRをライバルとして開発はされておらず、あきらかにジレラ サトゥルノをターゲットとしていた。多気筒エンジンのレーサーレプリカに対抗するように、コーナリング性能の高さをアピールしたグースだったが、販売的には苦戦。フレームのデザインをサトゥルノと同じ萩原直起氏が手がけていたこともあり、半額で買えるサトゥルノのディフュージョン版としてしか見られなかったというのが敗因だろう。

 

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シングルエンジンの身軽さを活かしてコーナリング性能を売りにしたグースは、新しいスポーツバイクの姿を模索した意欲作であった。

 

テンプターの弱点、それは「完成され過ぎていた」こと

 グースで苦渋を舐めたスズキが新たに企画したテンプターは、SRのカスタムトレンドを各部に取り入れた作りと言えた。車体のデザインはSRよりもクラシカルで、そのままでも充分にスタイリッシュなもの。フェザーベッド風のフレームや直立したシリンダーを持つエンジン、各部のメッキパーツやタンクの立体エンブレムなど英国車を思わせる装備で高い完成度を誇っていた。また、キックスタートオンリーであったSRに対して、セルフスターターを備えていたという点も見逃せない。

 このように全部盛りとでも言うべき充実の装備を与えられたテンプターは、スズキの対SR用決戦兵器とでも言うべき完成度であったが、残念ながらSRの牙城を崩すまでには至らなかった。これは筆者の私的な意見だが、SRに勝てなかった最大の原因は「隙の無さ」ではないかと思う。この「隙」というのは、ユーザーが手をいれる「隙」のことである。装備やデザインが整いすぎているテンプターには、ユーザーの目には「最初から完成しているカスタムバイク」と映ったのではないだろうか。意図した訳ではないが、SRはカスタムバイクの素材として購入するユーザーが多く、長い間生産が続けられていたこともあってカスタムパーツも豊富であった。そうした条件の相乗効果がSRブームを引き起こしたのであり、テンプターはカスタムスタイルの1ジャンルとしてしか選択されなかったのではないだろうか。テンプターというバイクは見れば見るほど良くできたバイクだけに、そんな気がしてならない。

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搭載される396ccのSOHC4バルブ単気筒エンジンは、直立したシリンダーが特徴的だ。最高出力は27PSと、400ccのシングルとしては充分なもの。

 

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ヘッドライトはカット入りのガラスレンズで、ウインカーはヨーロピアンタイプを採用。バフ仕上げのメーターケースが、質感をアップしている。

 

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2眼タイプの機械式アナログメーターで、クラシカルなイメージのコクピット。インジケーター類は全てメーター内に収められている。

 

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シンプルなデザインの燃料タンクの容量は12L。存在感のある「TEMPTER」の立体エンブレムだが、2000年式には本来「S」のエンブレムが付く。

 

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シートはシンプルなデザインで、ライダー側は角が落とされているので足つき性は良好。前後の段差も少なく、タンデムにも向いている。

 

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メッキ仕上げのライトケースや金属製のリアフェンダーで構成されるリアセクション。シンプルな角形テールライトがマッチしている。

 

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往年のレーシングマシンを思わせるアルミ製H断面のリムを採用は、スズキの本気度を感じさせる。ホイールサイズは18インチ、フロントフォークは41mm径の正立タイプだ。

 

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ダブルツーリーディング式ドラムブレーキを採用し、ドラムタイプとしては非常によく利くフロントブレーキ。これも往年のレーシングマシンを思わせる装備だ。

 

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リアホイールは17インチで、130/80タイヤを履くことでボリューム感がある印象。スイングアームはスチール製で、メッキ仕上げのチェーンカバーが取り付けられる。

 

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リアブレーキもドラムタイプで、こちらは一般的なシングルカムタイプ。マフラーはメッキ仕上げのメガホンスタイルだ。

 

テンプター主要諸元(2000)

・全長×全幅×全高:2110×730×1040mm

・ホイールベース:1430mm

・シート高:780mm

・車重:159kg(乾燥)

・エンジン:空冷4ストローク単気筒SOHC4バルブ 396cc

・最高出力:27PS/7000rpm

・最大トルク:3.0kgf-m/5000rpm

・燃料タンク容量:12L

・変速機:5段リターン

・ブレーキ:F=ドラム、R=ドラム

・タイヤ:F=100/90-18、R=130/80-17

・価格:46万9000円(税抜)

 

詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
https://news.webike.net/motorcycle/379259/

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