首都圏を離れると、四半世紀以上前に製造された路線バスが今も頑張っている様子を見かける。時には「これいつのクルマ?」と思わせるほど古そうな一台が混じっていることも……
文・写真:中山修一
(きっと古いであろう現役路線バスの写真付き記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)
■高知県に現れた古い中型路線車
2024年の夏に、高知県の室戸あたりをうろついていた時のこと。肌に刺さるような強烈な日差しの中、屋根のないバス停で待ちつつも、予定時刻を7分過ぎてもバスは姿を見せず、「これ1本歯抜けになってんじゃないの?」とだんだん不安になり始めた矢先。
緩いカーブで隠れた道の先から、ようやく路線バスと思しき車がやって来た。ここは高知東部交通が運行している地域で、同社の車両は明るい青に塗られている。
ところが、現れたバスには白地に赤と淡い青緑のラインが入っていた。行先表示は行きたい場所を示していたので、いわゆる旧塗装というやつか。
行先表示器はオレンジ色のLEDタイプながら、旧塗装だけに目を凝らすと、2段式のアルミサッシに前中扉とも2枚折り戸という、最近のバスではあまり見かけない様相。
■車内に広がる新鮮な古さ
やって来たバスは中乗り・前降りの運賃後払い方式。ドアが開くと、昔のバスでは当たり前だった2段のステップ、出会うと嬉しいツーステップ車だ。
しかも1段がやや高め。旧来の「よじのぼり系」なツーステップ仕様で、このバスがかなり古い車のように思えてきた。
車内に上がると待っていたのは、これまたレトロな木張りの床。防腐剤というか独特なニオイがして、子供の頃こういうバスあったな、と、ちょっと懐かしさを覚える。
窓のロールカーテンが全部下りているのはお約束でご愛嬌ながら、シートにレース模様のビニールカバーが掛かっているのが味わい深い。
■絶滅しかけのフィーリングを堪能
バスが発進すると、ギアチェンジの際にエンジンを小刻みにグオングオン吹かしながら、ゴキュゴキュと歯車を噛み合わせる音と振動がダイレクトに伝わる。これは完全に機械式だ。
運転席に目をやると、現行車では絶滅してしまった、紛れもなく長いシフトレバーが付いていた。うっすら記憶に残る、昭和の路線バスが放つ荒々しいフィーリングを2024年になってまた体験できるとは……。
巡航中気付いたのが、マイクロバスを除く殆どのバス車両にエアサスが標準装備されるように変わったため、最近は超絶に珍しくなったリーフサス付きの車両と思われる点。
走行する区間の性質上、停車発進の回数が少なく、巡航している時間が長いのもあって、尚更実感できたのかも知れないが、とにかく左右にユラユラ振れまくる。
エアサスの車ではまず起こらない、リーフサスならではの乗り味かも。趣味方向からアプローチするなら「横揺れのヒドさこそ味わい」と言ったところか。何とも魅力あふれるクルマに出会えたものだ。
■これ、いつの車だったの?
バスに付いている客室設備と走行装置の機能が、あまりにもレトロに感じてしまい、車両の素性が非常に気になってきた。車内にいる時は、もしかしてこれ1980年代の車か? と仮説を立て始めるほど。
下車後に今一度外観を見回すと、FUSOのロゴが付いており、まず三菱製の中型路線車だと確認できた。
ナンバープレートが2ケタ(高知22)だったため、1998年よりも前に登録された、地元生え抜きの車両であるのは間違いない。