日本においても同じ道路上の公共交通としてバスとトラムの共存をもっと進めてはいかがなものか?

日本においても同じ道路上の公共交通としてバスとトラムの共存をもっと進めてはいかがなものか?

 各地の都市交通としてLRTなど、ここ数年は日本でもトラム(路面電車)に、ようやく復活の兆しが見えてきた。利用者としては軌道があることで、バスよりも安心感とでもいうか“インフラ感”が強いイメージを持っている。ただし、道路上でのほかの交通との共存にはまだ改善テーマがあるようだ。

文・写真:橋爪智之
構成:中山修一
(国内外を走るバスとトラムの写真つき記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)

■返り咲いた“邪魔者”

専用軌道を走るトラム(左)と渋滞に巻き込まれる路線バス(右)。両者の連携は薄い?
専用軌道を走るトラム(左)と渋滞に巻き込まれる路線バス(右)。両者の連携は薄い?

 戦後、モータリゼーションが進んだことで、都市部の道路は交通渋滞が深刻となり、旧態依然としたトラムは自動車の邪魔になるとして廃止されていった。

 もちろん日本のみならず、世界各国でも同様の状況となっていたが、トラムを廃止することが何の解決にもならないといち早く気付いたヨーロッパでは、1980年代後半になるとトラム廃止に歯止めが掛かり、逆に延伸や新規開業が相次いだ。

 都市中心部では、自動車の軌道敷きへの乗り入れを禁止することで遅延を解消し、道路が狭くトラムと自動車の分離が難しい個所では地下や高架に線路を移した。

長崎のトラムとバスの走行レーンは完全に分離されている
長崎のトラムとバスの走行レーンは完全に分離されている

 段差の少ない低床車を導入することで、バリアフリーにも対応、もちろん排気ガスを出さないから環境にも優しい。

 将来を見据えて考えた時、これほど色々な利点があるトラムを採用しない理由はない。日本では既存の鉄道を置換えた富山や、新規で建設された宇都宮は、開業してからいずれも好調を維持している。

■バスと一体整備してこそ真価を発揮するトラム

 だが、もちろんトラムだけで都市交通が成り立つわけではない。いくら急カーブに強く、細い路地へ路線を伸ばすことができると言っても限度があるし、急坂にも弱い。

トラムと同じホームに発着するドレスデンの路線バス
トラムと同じホームに発着するドレスデンの路線バス

 そのトラムを補完する役割を担うのが、小回りが利き細い路地や急坂も通ることができる路線バスである。

 トラムの走行が困難な場所へのアクセスはもちろん、路線末端におけるフィーダー輸送に、路線バスは欠かせない存在だ。

 通りごとにトラムを敷くのは非効率なので、1本のメインとなる大通りにトラムを運行し、並行する別の通りには路線バスを運行させている都市も多い。トラムと路線バスは、必ずセットで路線網が構築されていると言ってもよい。

 しかし、トラムが運行されている日本の多くの都市では、決して効率的とは言えない運行形態が採られている。

 まず、トラムと路線バスの事業者が別ということで、それ自体は問題ないことではあるが、路線が同じ通りで完全に並行し、お互いが競合している点だ。

トラムの軌道上を走るドレスデンの路線バス
トラムの軌道上を走るドレスデンの路線バス

 新規開業した宇都宮は、開業と同時に並行路線が廃止され、途中駅でトラムに接続するフィーダー輸送を徹底するなど、かなり効率化が図られている。

 一方で広島や長崎など、長い歴史を持つ都市ほど、並行する競合路線が非常に多く見受けられる。これではお互いの乗客を奪い合う形となり、決して良い状況とは言えない。

■競合が不便を生んでいる日本の公共交通

 また、競合であるがゆえ、双方の乗り換えが考慮されていない点も問題だ。同じ名前の停留所であっても、乗降所が別々になっており、乗り換えようと思ったら横断歩道を渡るなどして歩かなければならない。

トラムの軌道敷きを走行するプラハの路線バス。トラムと共に専用軌道上を走るので渋滞に巻き込まれるリスクは減少する
トラムの軌道敷きを走行するプラハの路線バス。トラムと共に専用軌道上を走るので渋滞に巻き込まれるリスクは減少する

 雨の日などは、傘を差して移動をしなければならず、利用客にとっては非常に不便。これに関しては、新規開業の宇都宮でも言えることだ。

 せっかくバスターミナルまで設けた清原地区市民センター前を見ても、トラムとバスのホームは別々で、この辺は実に典型的なお役所仕事のように感じてしまう。

 もし、法令の問題で同じホームによる整備が出来ないのだとすれば、これは大きな問題で、早急な改善が必要だ。

 続いてヨーロッパの事例を見てみよう。トラムが運行されている都市の多くでは、バスはトラムと同じホームを使用し、乗り換えに移動の必要はない。

ドレスデンにて。トラムやバスが次々とやって来る。乗り換えは分岐する路線を除き同じホームでできる
ドレスデンにて。トラムやバスが次々とやって来る。乗り換えは分岐する路線を除き同じホームでできる

 下車した同じホームで待っていれば、バスもトラムもやって来る。また路線が並行する区間では、舗装された軌道上をバスが走行、一般車と通行区分を分け、渋滞を回避させるなど、トラムとバスを同列に扱い、より連携を持たせている。

 違う事業者同士であっても、同じ地域の交通連合という形で、一体となって整備されている。

停留所に停車する路線バス。プラハもトラムと同一ホームでの乗り換えが可能な停留所が多い
停留所に停車する路線バス。プラハもトラムと同一ホームでの乗り換えが可能な停留所が多い

 日本は、確かにトラムの開業や延伸、あるいは低床車の導入とそれに合わせたインフラ整備などが進み、人と環境に優しい公共交通機関が整備されつつあるが、トラムとバスがお互い別々に運用されているようでは、まだまだ改善が必要と言えるのではないだろうか。

【画像ギャラリー】国内外のバスとトラムの関係(9枚)画像ギャラリー

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