筆者はチェコに在住しており、普段現地の路線バスやトラムなどをよく使う。ある平日の昼下がり、郊外へ向かう路線バスに乗っていた時のこと。いくつかの停留所を過ぎたところで突然、男性が声を掛けてきた「検札です」。
文・写真:橋爪智之
構成:中山修一
■いつあるか分からない抜き打ちチェック
そう、信用乗車方式ではお約束の抜き打ち検札である。信用乗車方式とは、乗務員へいちいちお金を払ったりせず、事前に有効なチケットを買って乗り込む、いわゆるセルフ改札。ヨーロッパの公共交通機関ではごく一般的なスタイルだ。
乗車時に乗務員へチケットを見せることもないから、チケットを買わずにタダ乗りするなどの不正乗車をしようと思えばできてしまうのだが、それを抜き打ちでチェックするのが検札係だ。
■検札係は一般乗客に擬態している
検札係の身なりを一見すると、どこにでも歩いていそうな普通の男性で、服装も制服を着ているわけではなく、私服姿である。
検札係は、あくまで一般乗客に擬態し、悪意を持って無賃乗車をする人を捕まえることが目的だから、「私は検札係ですよ」と分かりやすい格好をしていない。つまり覆面検札係というわけだ。
中には偽者もいるので注意が必要だが、本物の場合は交通局のバッジを手に持っている。必ず3人以上でペアなのは、トラブルの際に対処するためで、比較的屈強そうな体格の男性が多い。
■めちゃくちゃ高額なペナルティ
先日あった検札で、私は自分の定期券を手にチェックの順番を待っていたが、その前に捕まった人がいて、私は確認されないまま検札係は“犯人”と共に下車していった。
検札係が無賃乗車を捕まえた場合、その人の身分証明書の確認や罰金の支払いなど、諸々の手続きが必要のため、たいていは1人捕まえたところで他の検札は中止し、次の停留所で下車して手続きを行うことになる。
不正を行った側に課されるペナルティとしては、その場で所定の罰金額を現金で払う、銀行からの送金のほか、最近はコンタクトレスによるカード払いが可能になった。「今、手持ちの金がない」という言い訳はまず通用しない。
とりあえず後で払おう、という場合も注意が必要だ。国や地域によっても異なるが、この罰金は違反から数日過ぎると増額される場合が多く、その金額も元の1.5~2倍になるので、さっさと払ってしまうのが賢明だ。
罰金額は非常に高額で、通常チケットの概ね30~50倍が請求される。300円程度のチケットなら、10,000~15,000円近い金額になる。
ちなみに、外国人旅行者だからと容赦されることはない。パスポートをきちんとチェックされ、踏み倒そうと思ってもきちんと記録されている。
日本人が違反をしたとして、請求書が日本まで届くかどうかは分からないが、次に同じ国を訪れた際に空港で止められる可能性もある。
■信用乗車方式のメリット・デメリット
信用乗車方式は、ヨーロッパなど海外では広く浸透しているが、メリット・デメリット双方ある。最大のメリットは、乗務員が運賃収受を行わないので、停車時間を大幅に削減でき、また複数あるどのドアからでも乗車することが可能となる。
日本の場合、ドアは通常2カ所、多くても3カ所で、前払い方式なら最前部のドアから乗車し出口は中後ドアから、後払い方式ならその逆となる。
どのドアからでも乗れる信用乗車方式を採用している事業者は、4~5カ所のドアを持つ車両を運行している。多ドア車は、混雑する都市部の路線で威力を発揮する。
デメリットは、やはり無賃乗車が増えることだ。その名の通り、信用乗車方式とは乗客を信用し、改札を乗客に任せるものであるから、その信頼を裏切る人ももちろんいるわけだ。それを防止するための覆面検札係で、罰金も高額に設定することで、無賃乗車を抑止している。
日本の多くのバス事業者の場合、運送約款に通常運賃+その2倍相当の罰金を徴収すると定めているところが多いそうで、これは鉄道営業法に合わせていると思われる。
しかしそれだと不正が発覚した場合、3倍しか罰金を徴収できないから、会社側が損をしてしまう可能性が高い。言い方を変えると、「3回に1回以上。検札に引っ掛からなければ、無賃乗車をした方が安い」となってしまうからである。



