■貸切組の大先輩運転士からのプレゼント
独車(一人で営業運転をすること)するには富士急行の担当者による見極めの試験があることも、前に記事にした。あれからもう数か月経過するが、ある日に大先輩である貸切・高速組の岡本運転士から「いやー、会うことが少なくてね、すっかり渡しそびれてしまったんだよ」とおそらく見極めの合格祝いなのだろう、携帯用の電波時計をプレゼントされた。
岡本運転士とは路線バスで一緒になることはめったにない。一度だけ芝浦港南ルートで交代したことはあるが、ご一緒するのはシャトルバスの方が多いだろうか。電波時計は路線バスではラムコーダがGPS時計を持っているので必須ではないが、シャトルバスはラムコーダにダイヤが入っていないので、着発時刻の管理は運転士が自分で確認するしかない。
よってシャトルを担当する運転士は、自前で電波時計を持ち込んでいるケースが多い。記者はスマホ連動のスマートウォッチを使用しているがその都度、腕時計を見るのは面倒ではある。その自前で持ち込む時計をプレゼントしてくれたのだ。そんな大先輩運転士がいるだけでも精神的に心強い。
■何を重視して運転士になるのか
バス業界は運転士の争奪戦になっているのは否定しようのない、もはや公然の秘密だ。やめて別の職業に就く方は、そもそも向いていなかったのかもしれないが、これから運転士をする方や同業者から転籍をする方は何を基準に事業者を選択するのかが大きな問題となる。
最初の判断基準はやはり賃金だろう。これは至極簡単な見極め方だ。1円でも高い事業者を選択すれば良いだけだ。ただし初任給や期間限定のモデル賃金はあてにならないし、手当や他の支給が全部入ってのモデル賃金ならなおさら精査する必要がある。
また現状では残業なしの仕業のみでダイヤを回すのはどの事業者でも難しいので、残業前提の勤務時間あるいは休日出勤も込みと考えた方が無難だ。結局は賃金と時間を天秤にかけることになるだろう。両方とも満足する事業者がないとは言わないが、相当狭き門になることだけは確かだ。
次に年間休日数だが、年間何日と書かれていても前述の通り賃金と相関関係にあるので注意を要する。モデル賃金が残業や休日出勤が前提だと実質の休日日数は変わってくる。また希望休が希み通りに取れるかどうかも実際のところを聞く必要があるだろう。
最後に居心地に良さだろうか。賃金が高いだけでいいのであれば、この項目は考慮の必要はない。しかし長く働こうと考えると、会社の雰囲気や直接かかわる上司たる運行管理者との関係等は、人のよっては賃金よりも重要な項目かもしれないことを忘れてはならない。
よく「運転士はやるべきではない論」が聞かれるが、それは責任と賃金との関係だけをはかったやや偏った見方に思える。もちろん賃金は総じて低いので何とかするべきだし、防ぎようのない車内事故で免許に傷が付くのも釈然としない。
しかし、それでも今現在でも正社員でがんばってダイヤを回している運転士に失礼ではないだろうか。仮にそう思っても、それは思った人の価値観であり万人の価値観に合うとは限らないのであって、ましてや人の職業を悪評で満たすのはどうかと思うし、それは思った人が勤務した時期と事業者がそうであっただけの話だ。
さて、記者が運転士をしているフジエクスプレスを分析してみる。まず賃金は東京都のバス事業者として高いとは言えない。賃金だけで選ぶのでれば対象からは外れるだろう。ただし記者の場合に限ればバイトなので、簡単に言ってしまえば時給は低いし1日の拘束時間は長い。
しかし1日の拘束時間が長いが、月に8日程度しか運転していないにもかかわらず、平均して日給15000円から16000円くらいで推移していることを考えるとバイトとしては悪くない。もちろん残業前提の仕業である。ただしパートタイム運転士の勤務時間は事情があって申し出れば考慮してくれる。記者の場合はあらかじめ出勤日は時間無制限でどのような仕業でも応じると伝えてあるので、遠慮なく正社員と同じ仕業を割り当てられる。
次に年間休日だが、日数としては平均的なのだろうか。路線組の正社員からは休日出勤は基本的にないと聞いている。希望休は路線組運転士と、シフトを組む運行管理者双方に聞いて事実関係を突き合わせた結果、希望休はほぼ全面的に通るようだ。制限らしいものは集団教育等の全員参加が必要な特別な日程があるときに、その期間は希望休を入れないで欲しいという通達が事前に全運転士に流れる程度だ。
記者の場合はそもそも希望日しか出勤しないが、特定の日に出勤してほしいと運行管理者から頼まれたのはこの1年間で2回だけで、それもダイヤが回らないとか運転士が足らないからとかそういう理由ではない。山梨の富士急に出向く教育の日程とか、見極めのための試験日程だとか、それは仕方がないねという内容の2回だけで、それも1か月以上前にお願いされたので無理なくスケジュールを組めた。
最後の居心地の良さだが、これは抜群に良いと言い切って構わない。賃金や休みには一切関係しない、しかもメンタルな部分なので人により感じ方や優先度は異なるだろうが、他に不満がなければ長く続けられる雰囲気はある。もちろん運転士は社内で堂々と愚痴を言うが、その程度の話であり会社側もよく理解している。
年頭の集団教育の際に役員が改善する旨の挨拶をしていたので、スピードは遅くとも変化はあるだろうと感じた。以上は記者が感じた主観的な意見だ。しかし同社を退職して別の事業者に転職し、戻ってくる運転士が一定数いるという事実は、賃金以上の居心地の良さを感じた結果もあるのではないかと推測する。
そもそも論として、運転士の養成にかかる手間と費用は正社員でもバイトでも変わらない。であれば正社員を入れたいのは現在のバス事業者共通の人情というものだ。それでも、いつ何日間の勤務してくれるのかわからないパートタイムやバイトを採用することを公式に表明し、正社員とまったく同じ教育をして賃金や社会保険以外は正社員同等の待遇で扱っている。時間的または経済的に無駄になるかもしれない可能性を承知の上で門戸を開いていること自体が、現在のバス事業者の間では異例と言わざるを得ない。
記者が入社した理由はもちろん内部からバス運転士の実際を見て感じて記事にして世に伝えることだ。しかし二次的には選んだ事業者で記者が出勤日に1仕業を担当すれば、運転士が不足する中でだれか正社員の1仕業が助かり、休日を取得してもらうことができるとの「小さな貢献」を期待してのことである。
貢献できているかどうかは知る由もないが、バス専門誌で記者をする限りはバス業界に対してあるいは広く公共交通という名目で利用している社会に対しての貢献のつもりでもあることは明言しておきたい。






