■ゆっくり行きましょ!
こうなると、万事休すだ。遅延は仕方がないとしても、交代運転士の出庫時刻を過ぎてもなお田町駅付近を走っているのだから、いかんともしようがない。とはいえ、回復運転は禁じられているので、そのまま車庫まで回送で戻った。
車庫に戻ると、交代運転士が待っていた。フジエクスプレスの路線バス運転士はそんなことで目くじらを立てる人はいないが、それでも自分の出庫時刻を過ぎてまで平然としていられるだろうか。記者が逆の立場だったら心もとない。
交代運転士はベテランの女性運転士だった。もう記者は平謝りで引き継いだ。遅延の理由くらい聞かれるかなとは思ったが、彼女の口から出たのは意外な一言だった。「ゆっくり行きましょ!」
■救われた!
交代運転士の一言にどれだけ救われたか、お分かりいただけるだろうか。アプリを使用すればGPSで営業中のすべてのバスがどこを走っているのかはリアルタイムでわかる。それを見ていたのかどうかは知る由もないが、「焦って事故を起こすよりいいですから…」と言い残して彼女は出発準備をして出庫していった。
カッコよすぎる運転士だ。こうなりたいものだと感心している場合でもなかった。遅延して戻ってきたら、すぐ後を走っていた追い付いたバスが車庫に戻ってきた。この団子になって戻ってきたバスに記者は乗って出庫しなければならないのだ。
追い付いたバスの運転士は「どうしたのかと思いましたよ。まだ往路の途中で追いついちゃいましたから…」と心配してくれた。ほんの少しの休憩をして気を取り直して出庫した。ベテランの運転士はこういうことはいくらでも経験はしているのだと思う。それでも同僚運転士の言動に救われた日だった。
■入り組んだダイヤだからこその配慮
また、ダイヤのパターンを熟知していて、その日に誰がどの仕業で走っているのかも把握して運転している。別の話だが遅延を発生させている際に同僚運転士が無線で「○○ダイヤの古川さん、後ろ追い付いていますのでお客さんを後ろに流すように案内してくださいね」と呼びかけてくれたことがあった。
なんで私が運転していることを知っていたのか、その時には不思議だったがパターンと交番表を把握しているからできる技なんだと後で知った。運転士の使命は安全に確実にダイヤ通りに旅客を目的地まで輸送することだ。
そのためには安全な運転を心がけるとともに、前後のダイヤや旅客の動向を常に予測して運転している。まだまだ記者にはその点が足りないのだが、田町ルート2回目の乗務で痛感させられた。そして同僚運転士の人柄にも助けられた結果、この日は無事に入庫することができた。
今回は失敗と反省と今後の課題が全部いっぺんに来たような話だったが、路線バスの運転士はこのような重責を担いつつ日々運行していることを知っていただければ幸いである。
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