■もはや出どころ不明
自動車専門書に目を通した限り、専門用語としては、ステアリングホイールやステアリングハンドルが、だんだんと年月をかけて「ハンドル」に変わっていった印象を持った。
では、単なる「ハンドル」という表現が登場する最も初期の文献はいつ頃かと言えば、1908年発行のものが見つかった。さらに、1920年代中頃の時点で「ハンドルを取られる」の言い回しが既にあったらしい。
自動車の黎明期から呼称の「ハンドル」は存在していたと思われるが、自動車の舵取り装置のことを「ハンドル」と呼ぶようになった明確な経緯を記した文献は1冊も見つからなかった。
なにぶん歴史が古すぎるため、覚えている人も世界で恐らく0人になって久しく、今やまったく知る由もなかったのは、ちょっと残念。
■こんな理由だったのかも!?
とはいえ、あり得そうな仮説を立てるとするなら、まずステアリングホイールよりもハンドルの方が短くて言いやすい、という単純な理由が考えられる。
また、1890年代の日本では自動車よりも先に自転車が普及していた。当時の文献によれば自転車の方向を変える棒の部分のことを最初からハンドルと称しており、一般にも広く知れ渡っている単語だったのが読み取れる。
同じタイヤで走る乗り物であれば、後から登場した自動車の舵取り装置をハンドルと呼んでも良いんじゃないの? となった可能性もゼロとは言い切れなさそうだ。
さらに、ごく初期の自動車の舵取り装置には、円形だけなく棒状のタイプもある。最初に渡来した自動車には棒状の舵取り装置が付いており、手で握る柄の部分をハンドルと呼んでいたが、円形タイプの自動車が本格的に入ってきた後も、「ハンドル」が俗称としてそのまま残った説も想像できる。
ちなみに、1903年に日本の地を初めて走った路線バスに使われた米ロコモービル製蒸気自動車には、棒状タイプの舵取り装置が取り付けられていたようだ。
いずれにせよ、「ハンドル」が、メーカーやマーケティング会社が一方的に決めて、今日からこう呼びますよ〜、と触れ込む「作られたもの」ではなく、いつのまにか誰もがそう呼ぶようになった「できちゃったもの」だったのは間違いなさそうだ。
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