陸上輸送の運転手が絶対的に不足している。トラックやバスのプロ運転手は鉄道運転士や航空機パイロット、船舶の運航職員といった運転・操縦技能を持ったプロであることには変わりがない。それなのに不足しているのはなぜか?
さまざまな視点から考察してみた。なお、特定のバス事業者のことではなく一般論としてのオピニオンなので連想を避けるためにイメージ写真はすべて海外のバスを使用していることをお断りしておく。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
【画像ギャラリー】バス運転手の絶対的不足は待遇だけの問題なのか?その原因と対策の考察(29枚)画像ギャラリー経済的な理由
なり手がなければ賃金を上げればいいだけの話だ。全体的な労働者の賃金が上がっていないのは経済政策の問題だとしても、待遇を上げればバスの運転手になる人はいるはずだ。
しかし賃金を上げるには運賃の値上げが必要になる。しかし長引くデフレ不況のあおりで事業者としては値上げはしにくい。国鉄の値上げに次ぐ値上げで国民に見放された歴史を見てきたからということもあろう。
景気が良ければ収入が増えるので運賃の値上げはできるが、世の中が値下げ競争の嵐の中で交通機関だけ値上げというのは言い出しにくい。よって赤字路線を整理し、減便し、バスを中型化し、小型化し、あるいは新車導入をやめて中古車に切り替え、自治体の補助金で路線を維持する等々のことがこの数十年にわたり繰り返し行われてきた。
都市部の事業者では排ガス規制の問題もあり中古車というわけにもいかず、新車を導入し続けなければならないとうジレンマも生じた。これでは運賃の値上げどころではなく、運転手の待遇を改善しようにも限定されてしまうのが実情だろう。
免許の重み
それぞれの職種で免許が必要だが、航空機の航空従事者技能証明や大型船舶の海技士の免状(小型船舶操縦士を含む)、鉄道の動力車操縦者運転免許証は自家用で使うことはほとんどなく、業務上での責任が問われることがあっても日常生活で困ることはあまりない。
ところが道路を運行するバスの運転手が持つ大型二種免許は、ほかの運転免許(普通や自動二輪等)を持っていても免許証としては一体をなすので、仮に仕事中の事故で免許停止や免許取り消しになった場合は、持っている全部の免許について免停や免取になってしまうので職を失うばかりか日常生活も直ちに困難になる。
これはタクシーでもトラックでも同様だ。運行管理に問題がない限り、行政罰と刑事罰の責任は全部運転手が負わねばならず、そのうえで運行ごとの乗客の命を預かる仕事なので、果たして責任に見合った待遇なのかという議論は尽きない。
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