前工程が会社を導いていく!! 正解が見えない時代の「会長」という役割

前工程が会社を導いていく!! 正解が見えない時代の「会長」という役割

 経営者・財界人としてのカタい話から、モリゾウとしての柔らかい話まで、豊田章男会長にお話を伺う機会は多い。近頃、会長の話の中に「前工程」という言葉がよく聞かれるようになった。それはいったいどのようなことなのか?

※本稿は2025年8月のものです
文:ベストカー編集部/写真:トヨタ
初出:『ベストカー』2025年9月26日号

【画像ギャラリー】2025年初夏の壮大な前工程!! 6年ぶりに参戦したニュルブルクリンク24時間レースメモリアル(16枚)画像ギャラリー

豊田章男会長が考える「前工程」とは?

豊田章男会長が話す「前工程」とはどのようなことを意味するのか、聞いてみた
豊田章男会長が話す「前工程」とはどのようなことを意味するのか、聞いてみた

 2年前豊田章男社長が会長に就任された時、「従来の会長とはまったく違う会長像を作っていきたい」と語っていた。当時はその意味がよくわからなかったが、「前工程」という言葉にその秘密が隠されているように感じ始めた。

 トヨタ生産方式の『ジャスト・イン・タイム』の考えに「前工程」と「後工程」という言葉が出てくる。クルマの組立ラインでは必要最小限の部品が用意されており、注文に応じてすぐにクルマをつくれるようにしている。

 前工程は完成品のストアがあり、後工程はそこから必要な部品を引き取る。前工程は引き取られたものをすぐにつくって補充することで、お客様の注文に応じて、必要なモノを必要な時に、必要な分だけつくって運ぶというムダのない生産活動ができる。

 『ジャスト・イン・タイム』はムダな在庫を抱えず、注文後の生産時間を短くすることで、適正な価格で商品をタイムリーにお客様のもとに届けようという考え方だ。

 後工程の先にはお客様がいて、いい商品を届けるために前工程はいかに後工程が楽に仕事をできるようになるか考える。前工程と後工程は常に「カイゼン」を重ねていくことが求められる。

 「私の今の役割は前工程なのです。0から10をつくること。例えばニュルブルクリンク24時間レースへの挑戦、あれも前工程です。

 トヨタ自動車の大多数の人間は機能軸で動いています。技術は技術、営業は営業といったふうにです。でも、機能軸のなかでは新しいものは生まれない。機能軸を壊すことで、『こんなことができるんだ』という発見があります。

 2025年のニュルブルクリンク24時間レースには、トヨタガズーレーシングとルーキーレーシングが一緒になって『トヨタガズールーキーレーシング』として参戦しました。6年ぶりでしたが、新鮮な驚きがあり、『もっといいクルマづくり』への想いを新たにしました。

 正解がわからない時代だからこそ、いろいろ準備して周りを巻き込んでチャレンジしていくことで新しい気付きがあり、方向性が定まっていくということがあります。私はどの機能にも属しません。でもやる時は一緒にチャレンジしたいと思っています」。

豊田章男会長の役割……執行職に投げかける「勝てるの?」の意味

ニュルブルクリンク24時間レースへの挑戦も「前工程」のひとつだという
ニュルブルクリンク24時間レースへの挑戦も「前工程」のひとつだという

 もちろん、豊田章男会長がすべて正しく、いつも0から10ができ上がるわけではない。しかし、そういう役割を果たすことでトヨタ自動車という組織が強くなることは間違いない。豊田章男会長の話は続く。

 「前工程と言いましたが、着眼点や問題点を発見することも私の役割です。『こういう目線で見るとこう見えるけど、どうなの?』といったことです。

 社長を14年やってきて、いろいろな経験をしました。失敗も数多く経験しています。だからそれを生かしたいと思うのです。

 私は相談された時に『それで勝てるの?』と言うことがあります。組織を強いチームにすることは、執行職や部長がやることです。勝つ目的は儲けることではありません。もちろん儲けなければなりませんが、それだけではありません。

 勝つというのは青臭い言い方かもしれませんが、みんなが笑顔で幸せになることです。トヨタは『幸せの量産』をビジョンにしています。自分たちだけではなくみんなが幸せにならなければなりません。

 儲けること、それだけではなく、儲けたらもっといいクルマをつくるとか、明るい未来への取り組みに投資するとか、そういうことが大事だと思います」

CFOの近健太氏はラリーチャレンジ富士山すそのに出場し意外な(失礼)速さを見せた
CFOの近健太氏はラリーチャレンジ富士山すそのに出場し意外な(失礼)速さを見せた

 豊田章男会長の話は深い。豊田章男会長の前工程という役割を執行職はどう思っているのだろう。トヨタでCFO(最高財務責任者)を務める近健太氏に聞いてみた。

 「(会長とは)いろいろな話をさせてもらいますが、どんな問題があるのか? 影響としてどんなことが考えられるのか? そういったことを相談して進めていけるので、ムダがなくなったというか、仕事がやりやすくなっていることは間違いありません。

 会長に相談をしながら、最終的に決めるのは我々執行職です。その役割ははっきりしています」と会長と執行職との関係を話してくれた。

 「執行職はいろいろな面白いことを考え、やってみればいい。やってみて私が思っていた以上の成果を出して、自慢したくなるような経験がたくさんあれば、それが一番いい関係だと思います」

 なるほど、豊田章男会長はプロデューサー役を買って出ているのだ。

 そして、今回の話の最後に豊田章男会長はこう締めくくった。

 「私もどこまでできるかわかりませんが、0から10をつくれる人を育てることが使命だと思っています。それにはいろいろなことを経験させてあげることだと思います」。

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