近年のクルマは市販車のグレードやスペックについて資料が残っているが、ネットが普及する以前はスペックすら調べるのが困難なこともある。中には誰も知らなかった秘密が、近年になってわかるケースも…。今回911ターボカブリオレの話も、そんな例のひとつである。
文:古賀貴司(自動車王国) 写真提供:ICONIC AUCTIONEERS
【画像ギャラリー】まさかそんな特異な出自だったとは!! 超貴重993カブリオレがコレだ!!(10枚)画像ギャラリー一人の男が頼み込んで実現した993ターボカブリオレ
ポルシェ911ターボには今でこそオープントップの「カブリオレ」が当たり前のように存在している。だが964型と993型の時代には、カタログモデルとしてターボカブリオレは設定されていなかった。
にもかかわらず、イギリスのアイコニック・オークションズに993型の911ターボカブリオレが出品され、大きな話題を呼んでいる。
この車は改造車ではない、ポルシェ社が自ら手掛けた「純正」911ターボカブリオレなのだ。
1994年、ドイツ・ミュンヘンで「MAHAG」というポルシェ正規ディーラーを営むフリッツ・ハーベル氏がジュネーブモーターショーを訪れた。ハーベル氏は会場で993型の911カブリオレを目にし、ある確信を抱いた。「911ターボのカブリオレがあれば必ず売れる」と。
直談判の末、10台売ることを条件に交渉成立
当時のポルシェは1989年のGシリーズ3.3ターボカブリオレ以降、オープントップの911ターボを提供していなかった。
MAHAGは1923年に元バイク・レーサーのカスパー・ハーベルが創業した老舗自動車ディーラーである。
1952年、息子のフリッツ・ハーベル氏の決断でフォルクスワーゲンとポルシェに事業を集中し、2000年頃にはドイツ最大のVW・ポルシェディーラー(2010年からVWグループ傘下となり18拠点を運営)へと成長した。
この頃、ポルシェ社は993ターボ(クーペ)の開発も進行中で、カブリオレをラインナップに加えるほどの財政的余裕はなかった。そんな状況を知りながらも、ハーベル氏は諦めなかった。
ポルシェ経営陣に直談判し、「最低10台の注文を確約できるなら」という条件を引き出したのだ。
製造はポルシェのゾンダーヴンシュ(特別注文)部門、現在のポルシェ・エクスクルーシブ・マヌファクトゥールで行われることになった。
993に存在している2つのターボモデル
ハーベル氏は最終的に14台分の注文を集めることに成功する。左ハンドル9台、右ハンドル5台という内訳で、香港や南アフリカなど世界各地へ納車された。
この911ターボカブリオレの最も興味深い点は、技術的に「ハイブリッド」だったことである。
というのも993型の911ターボがまだ開発中だったため、エンジンとトランスミッションは先代の964ターボ3.6から流用されていたのだ。
最高出力360馬力を発生するタイプM64/50型3.6リッター・シングルターボエンジンに、ゲトラグ製5速マニュアルトランスミッションを移植したのだ。
ボディは993カブリオレをベースに、964ターボSのリアスポイラーを組み合わせるという、まさに世代を超えた特別仕様だった。
後にデビューした正式な911ターボ(993型)はツインターボエンジンに4WDという組み合わせである・だがこの特別な911ターボカブリオレはシングルターボエンジンにRWDという構成だ。同じ993型ターボでも、まったく異なる性格を持っていたのである。













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