完成度は高い一方で問題も
もちろん、市販車のマニュアルにも優れたものは存在する。私が開発に関わった三菱ランサーエボリューションV以降では、耐久レースでもシフトフィールが劣化しないトランスミッションを目標に設計を行った。
具体的には1速から5速までダブルやトリプルのコーンシンクロを採用し、ギア歯面にはショットピーニング加工を施すなど非常に手間のかかった構造になった。その結果、シフトフィールは非常に優れたものとなったが、問題は油温管理だった。
トランスミッションオイルの温度が上がると性能が低下するため、オイルクーラーなどの対策が必要になる。このような事情を考えると、市販車で常に理想的なシフトフィールを維持するのは容易ではない。
一方、近年のスポーツカーではデュアルクラッチトランスミッション、いわゆるDCTが主流となりつつある。ツインクラッチを電子制御することで、ほぼ途切れのない加速を実現できるからだ。
例えば日産 GT-R (R35)や三菱ランサーエボリューションXに採用されたDCTは、その完成度の高さで知られている。ただしDCTは制御が非常に複雑で、油温管理や油圧制御の難しさもある。
さらに興味深いのは、マニュアル操作よりもフルオートモードのほうがラップタイムが速くなることが多いという点だ。サーキットによっては1.5〜2秒ほど速くなるケースもある。この事実を知っている人は意外と少ないのではないだろうか。
そんななかで、私が特に印象的なシフトフィールを感じた車がある。「ランボルギーニ ガヤルド LP570-4 スーパートロフェオ ストラダーレ」である。このモデルはシングルクラッチ式のセミオートマチックを採用している。
DCTのように完全にショックを消すのではなく、あえて変速の感触をドライバーに伝えるセッティングになっていた。パドルを操作すると、明確なシフト感が伝わる。それでいて変速は非常に素早く、ドライバーの感覚と機械の動きが見事に調和している。
サーキットでは1速へのシフトダウンも安全に行うことができ、オーバーレブ領域では電子制御が操作をキャンセルしてくれる。安心感という点でも優れたシステムだった。
市販車で感銘を受けたトランスミッションとは?
一方、オートマチックトランスミッションとして感銘を受けたのは「ポルシェ 911」に搭載されるPDKである。このデュアルクラッチシステムは変速速度、耐久性、制御ロジックのすべてが高いレベルにあり、レースでも使用されるほど完成度が高い。
その制御の基礎となっているのが、かつてポルシェが採用していたティプトロニックの技術である。トルクコンバーター式ATでありながら、ギア保持やキックダウン、ロックアップ制御などが非常に巧みに作り込まれており、サーキットでも十分な性能を発揮していた。
こうして振り返ると、トランスミッション技術は長い年月の中で大きく進化してきたことが分かる。そして電気自動車の時代になると、多段変速機そのものが不要になる可能性もある。しかしこれまで培われてきた制御技術は、モーターのトルク制御などで確実に活かされていくはずだ。
そうした観点から私が「最も心地よかったシフトフィール」を挙げるなら、次の2つになる。パドル操作の完成度という意味では、ランボルギーニ ガヤルド LP570-4 スーパートロフェオ ストラダーレのシングルクラッチ。そしてオートマチックとしての完成度では、ポルシェのティプトロニック、そしてPDKである。
これらは単なる変速機ではない。ドライバーの感覚と機械の動きを高い次元で結びつけるスポーツドライビングを心得たメーカーだからこそできるロジックを持ったシステムなのだ。
【画像ギャラリー】プロが選んだ最高のシフトフィールを持つクルマたちが納得すぎた!!(7枚)画像ギャラリー










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