ハイブリッドカーといえば大きなリア開口部を持ち、空力的な追及でプリウスにしても、かつてのインサイトにしても似通った形になるのが常。
しかしそんなハイブリッドカー界に旋風を巻き起こしたのがホンダグレイス。なんせ5ナンバーのセダンで”ちょうどいい”感じもする。
小さいクルマを作れ、ってみんないうから全長4450mm、全幅1695mmで作ったのになかなか売れない。人気のハイブリッドだし、ガソリン仕様まで出したのに、なぜ売れない?
果たしてグレイスの影の薄さはなにが原因なのか。聞いてみた。
文:岡本幸一郎/写真:ホンダ
■忘れることなかれ、最初は奮闘したグレイス
グレイスの2018年6月の販売台数は890台で、このところ単月では概ね600~800台という感じで推移しており、上半期(1月~6月)の販売台数は4027台となった。
2014年12月の発売から少し遅れてガソリン車も追加されたものの、販売の内訳としては、ほぼ大半がハイブリッドとなっている。
ちなみに、グレイスの発売時にアナウンスされた月販目標台数は3000台だった。今となっては実態とかけ離れた数字のように感じるが、実際どうだったか振り返ろう。
発売から2カ月が経過した2015年1月末の時点で、1万台を超える受注があったことが2月初頭にホンダから正式に発表された。
さらに同年3月までの4ヶ月間はしっかり目標をクリアし上々のすべりだしを見せたものだ。それ以降も発売から1年あまりが経った頃まではコンスタントに1000~2000台を販売していた。
思えばグレイスにとっては、たびかさなるi-DCDのリコールやタカタの欠陥問題の影響もあってホンダのイメージが落ち込んだ。
非常に厳しい中での船出となったわけで、販売店への客足も遠のいていたことだろうから、まさに大健闘といえる。
やはり、こうしたコンパクトセダンの需要というのはそれなりにあるものだと感じたものだ。ところが、現在では冒頭でお伝えしたとおりの状況だ。
■なぜグレイスの影は薄くなったのか
そんなグレイスは業界内での評判も悪くなく、試乗記は概ね好意的なものが多かった。
内外装デザインが洗練されていて質感も高く、このサイズながら後席やトランクも広々としていて、乗り心地もよく、件のi-DCDもずいぶんよくなっていて、全体の印象はよかった。
とりわけ、このクラスのコンパクトセダンが軒並み地味なものばかりの中、出た当初のグレイスだけは、なぜかやけにスタイリッシュに見えたことを思い出す。
それでも、急速に存在感が薄れてしまったのはなぜだろうか? いろいろと考えてみた。まず、数が売れなくなった最大の理由は、よくいわれているとおりセダンの市場自体が冷え込んでいることが大きいのは間違いない。
グレイスも前述のとおり登場から1年あまりはまずまず売れた。
だがグレイスのようなコンパクトセダンを求める顧客に行きわたってしまい、さらには時間が経過して新車効果が薄れると、販売台数が減少していくのは必至といえる。
これはなにもグレイスに限った話ではない。
トヨタだって全部足すとそこそこの数になるとはいえプレミオ/アリオン、カローラアクシオの個々では順調とはいえず、日産のシルフィやラティオもあまり売れていない。
そして、やっぱり見た目に「華」がない。コンパクトセダンとしてはかなり頑張ったと思えるスタイリングは、前でも述べたとおりデビュー当初にはなかなかイケているように個人的には見えた。
しかし若々しさがなく、いまとなっては同クラスの他のクルマと同じように地味に見える。街で見かけてもまず印象に残らない。
さらに、個人的に思うのは、ホンダだから。というのは、いまのホンダにはセダンのイメージがまるでないからだ。
かつてのホンダは、トヨタや日産に負けないほど上級セダンのラインアップが充実していて、しっかりキャラが立っていて人気のあるセダンがいくつもあった。
ところがそれも今は昔。グレイスのイメージを牽引してくれるような立派な兄貴がいないので、ホンダの中でも孤立しているような印象がある。
加えて、名前がよろしくない。いや、「グレイス」というネーミングが悪いわけではけっしてないのだが、なにせ印象に残らない。
認知度も低いので、車名を聞いてもどんなクルマか思い浮かばない人が多いようだ。
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