鉄道線を廃止した後、ほぼ同じ場所を通る代わりの路線バスを「代替バス」や「転換バス」と呼ぶ。
あくまで鉄道の代役となって地元の足を支える絶対の使命を持つため、代替バスになれば未来永劫安泰というイメージが多々あるものの、最近はそうでもなくなってきている。そんな代替バスが2022年9月にまた一つ消えた。
文・写真:中山修一
道南バス 旧国鉄胆振(いぶり)線代替バスとは
2022年9月30日で運行終了となったのは、北海道の伊達駅前(JR伊達紋別駅)と倶知安駅前を、地図で見て洞爺湖の右側を大きくカーブするような経路で結んだ、道南バス運行による旧国鉄胆振線代替バス(道南バス胆振線)だ。
旧国鉄胆振線は、元々鉱石を輸送するために作られた軽便鉄道をルーツに持つ、1944年に全通した全長83kmの鉄道線だった。
鉄道時代は100円稼ぐために2,400円程度のコストがかかる赤字路線で、国鉄民営化よりも少し前の1986年11月に廃止となり、代わりの交通手段として道南バスが路線バスの運行を開始した。
晩年の鉄道が全20駅だったのに対して、バスの停留所数は91箇所。所要時間も2時間40〜3時間ほどかかった鉄道よりも短い約2時間24分で全区間を結んでいた。伊達駅前〜倶知安駅前を通しで利用した場合の運賃は1,760円だった。
ガッツリ廃止! ではありません
1986年11月にスタートを切り、鉄道の代わりという立ち位置を変えないまま、36年もの間を毎日淡々と走り続けてきた道南バス胆振線。「廃止」と聞くと、路線全部が役割を終えて潰れたのかと思いがちであるが、この胆振線は決してそうではないので早とちりは禁物だ。
今回の廃止対象となったのは、全線のうち本町東団地(伊達市大滝区)〜喜茂別(虻田郡喜茂別町)間約24.3kmの区間。伊達駅前〜本町東団地/喜茂別〜倶知安駅前間の運行は継続されるので、路線が分断される形となったわけだ。
さらに、喜茂別〜日の出間約12.8kmは町営バス「ウサパラ号」が走っており、それを差し引くと、路線バスの設定が完全になくなるのは本町東団地〜日の出間の約11.5kmに当たる。
ほんとに潰してよかったの?
さて、バス路線長約86kmのうち、途中だけ11.5km分のバス空白地帯を作っても地元の足に影響はなかったのだろうか?
実はこのエリアは鉄道時代から人があまり(今は殆ど)住んでおらず、本町東団地バス停と同じ現・大滝区内にあった当時の新大滝駅〜喜茂別駅を通しで運転する便は上下線それぞれ1日10本中4本しかなかった。
バスも通しの便は上下線ともに1日17本中3本で、殆どが伊達駅前←→本町東団地まで/倶知安←→喜茂別までの運行形態だった。
首都圏で11.5kmのバス路線はそれなりに長い距離だが、バス消滅区間の本町東団地〜日の出間には停留所がいくつあったのだろうか? なんと、たったの2箇所だ。各停留所の周辺の様子は…
(1)三階滝入口
・国道453号線沿い、大滝本町東団地から1.3km
・停留所から約1km先に景勝地の三階滝がある
(2)清原
・国道276号線沿い、三階滝入口から6.2km
・道道695号線への分岐がある
・695号線に入った先に旧国鉄胆振線御園駅があった
……そのほかは周辺に民家がなく実質無人、ヒグマの数のほうがよっぽど多そうなエリアかもしれない。
実際バスを利用してみた際はどうであったか。伊達駅前10:50発の倶知安駅前行き(2021年後半現在)を例にすると、伊達駅を出て街中で数人の乗客が乗り、大滝よりも前に全員が下車。
喜茂別を過ぎて暫く経つとまた乗客が4名ほど増え、人数は変わらないまま倶知安駅に到着した。運転手とゲスト乗客はノーカウントが原則として、本町東団地〜喜茂別間の利用者は実質ゼロ人であった。
やはり「需要がない」が最大の廃止理由とみられる。普段使いの利用者が皆無なら、さしたる影響は今のところ出ないのだろう。