京王が運営する座席管理システム「SRS」(乗客向け予約サイトの名称は「ハイウェイバスドットコム」)に、ダイナミック・プライシング支援機能「マジック・プライス」が実装されてから1年半が経過した。他社の導入の動きと活用のポイントを追う。
(記事の内容は、2022年7月現在のものです)
文/成定竜一、写真/成定竜一
※2022年7月発売《バスマガジンvol.114》『成定竜一 一刀両断高速バス業界』より
■名鉄、西鉄でも導入進む
京王自身の路線に加え、SRSを採用する名鉄や西鉄の路線でもダイナミック・プライシングの導入が進んでいる。航空や旧・高速ツアーバスと競合する長距離路線だけではなく、名古屋~松本や福岡~宮崎など高頻度・中距離昼行路線での導入も多い。
高速バス市場の中心はこれら中距離路線だから、成功すれば、ダイナミック・プライシングは高速バスの運賃施策の定番となれるだろう。
ただ、現状では、事業者ごとに理解度と運用方針が異なり、正しく運用できている事業者の路線と、そうでない路線が混在する。
■段階的値上げとは異なる
よく目に着く間違いは、ダイナミック・プライシングと「段階的値上げ」との混同だ。
航空業界などで、かつて、割引といえば早期購入割引、いわゆる「早割」が定番だった。一部の高速バス事業者は、それに引きずられ「販売開始時(1ヶ月前など)に割引で売り始め、オンハンド(現在の予約数)の伸びに合わせ値上げしていく」という風にシステムを設定している。
だが、今日、多くの航空会社やホテルでは、「早く予約したから安い」とは限らない。「段階的値上げ」は、もはや一周遅れという印象だ。
そもそも、なぜ「早割」だったのか?
航空国際線の場合、乗客を観光客と出張客に分類すると、前者は早めに予約する傾向にあり、自腹ゆえに価格に敏感だ。逆に後者は直前予約が多く、会社負担なので価格をあまり気にしない。前者は運賃しだいで行先や日程を変更できるが、後者はそうもいかない。
こういう市場では、「初めに割引運賃で観光客を集め、一定の搭乗率に到達した後、値上げして高単価の出張客の予約を待つ」のが、航空会社にとってベストな戦略だ。
乗客側でも、観光客は安く旅行できると同時に、海外出張するような忙しい人が直前に出張を決めても残席がある、という点で実はメリットが大きい。
では、高速バス市場は「早めに予約する人は価格に敏感で、直前予約の人は価格を気にしない」マーケットか?