当時のコンパクトカーとしては珍しい両側スライドドアを採用したラウム。トヨタのセダン・イノベーションの一環として企画され、人気を集めた一台だ。ラウムには、今でも目を引く機能や機構が満載だった。ラウムが教えてくれた、使い勝手の良いクルマのポイントを、今一度振り返ってみよう。
文/佐々木 亘、写真/TOYOTA
■様々な空間にこだわった稀代の発明
ラウムが登場したのは1997年。ロングホイールベースに両側スライドドアという、ユーザーの「あったらいいな」を形にしたようなクルマだった。
ラウムという車名は、ドイツ語の空間(RAUM)から付けられたもの。その名の通り、空間に関するこだわりが、各所に詰め込まれている。
まずは、乗り降りの「空間」に着目したスライドドアの採用だ。ヒンジドアよりも乗降時のドア開閉空間が小さく済み、開口部も広い。
スライドドアには、オープンロック機構が備わり、坂道でも勝手にドアが閉まらないのである。
スライドドアに備えられたパワーウィンドウもこの時代としては珍しい。
また、リアドアだけでなくヒンジタイプのフロントドアにも工夫がみられる。ヒンジ取り付け角度が従来車よりも約7度傾いているのだ。
これによりドア上部が大きく開閉する。この違いは、荷物を持ったまま乗車する際に歴然とした差として体感できた。
バックドアも、このクラスのワゴンでは珍しく横開きを採用している。車両後方が狭い中じゃ上でも、跳ね上げ式のバックドアよりも開けやすい。
さらに高い天井に広い足元スペース、高い着座位置なども相まって、開放的で乗り降りがしやすいのも特徴だ。
室内を自在に移動できるウォークスルーも採用され、コンパクトセミトールワゴンとしては、抜群の使い勝手を誇る。
現在、軽自動車やコンパクトトールワゴンで当たり前になっている仕組みを、四半世紀以上前に、1台のクルマに詰め込んでいる。
ラウムがいなかったら、現在のトールワゴンたちの登場が、もう少し遅れていたのではないかと思うほどだ。
■ラウムの技術がランクル250にも使われている?
初代ラウムは自動車修理費用の低減にも、目を向けている。バンパーには上下2分割方式を採用し、軽損傷時には交換部品を小さくできるのだ。
部品代は安く済むし、修理にかかる時間も減る。
こうした発想は、以降のSUVやコンパクトミニバンに数多く取り入れられた。
現行型シエンタのフェンダーアーチモールなどは傷がつく部分だからこそ、あえて素地ものを使い、損傷への懸念と交換のしやすさを両立している。
さらに、昨年登場したランドクルーザー250にも、フロントバンパーの分割思想が引き継がれているのだ。
分割されたフロントバンパーは、簡単に修理できるように設計されたという。これを見たとき、筆者は「あっ、ラウムのやつだ」と少し嬉しくなった。
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