自動車と卓球。一見、なんの繋がりもないように思えるが実は、この2つは「ゴム」で結びついていたのだ! つい先日も世界卓球で日本女子が中国をあと一歩まで追いつき、かなりの話題になったことは記憶に新しいだろう。しかし、日本選手が使っていたラケットには見覚えのある企業のロゴが入っていた。
文/佐々木 亘、写真:佐々木 亘、MIZUNO
■タイヤとラバーは元を正すと同じゴム
クルマの動力を地面に伝え、走る・曲がる・止まるを生み出すのがタイヤの役割だ。
真っ黒の塊は、走行安定性はもちろん、低燃費・排水性・静粛性など、あらゆる性能を求められ、日々進化を続けている。
卓球は、わずか4gのボールを200g近いラケットで打ち合い、狭いコートに入れ合うスポーツだ。よく似たスポーツにテニスがあるが、卓球のネットはコートの大きさに対して高すぎる。
そのため上手く返球するためには、ボールに回転をかけることが重要になるのだ。
そこで、卓球のラケットにはゴムとスポンジを組み合わせた「ラバー」と呼ばれるものが貼ってある。
赤や黒(最近では緑・紫・ピンク・青もある)のラバーで、ボールに強烈な回転をかけて打ち合うスポーツ、それが卓球だ。
卓球のラバーにも、弾性や回転性能(グリップ性能)、重さや耐久性などあらゆる性能が求められる。
ただのゴムだが求められるものは大きい。この点が、タイヤと卓球ラバーに共通する、宿命とも言えるだろう。
■あのミシュランが卓球ラバーを作っていた?
ミシュランと言えば、言わずと知れたタイヤメーカーだ。自動車ファンなら、一度は履きたいタイヤブランドだろう。
世界最大級の多国籍タイヤ製造企業だが、株式合資会社の本拠はフランスにある。このフランスには、Cornilleau(コニヨール)という卓球メーカーもあるのだ。
コニヨールは、老舗ではないものの、本国フランスでは大きな規模の卓球メーカーだ。卓球フランス代表の用具もサポートしていたことがある。
本拠をフランスに持つ強力メーカー同士がタッグを組んで生まれたのが、「ターゲットプロ」という卓球ラバーである。
ゴムを知り尽くしたミシュランがコニヨール社と共同開発したラバーは、卓球界で大きな話題を呼んだ。
中学生から卓球を嗜む筆者も、このラバーを使ったことがある。卓球ラバーの製造国は、ドイツや中国が多く、フランス発は少し異質な存在であった。
ドイツ製ラバーの性能が高いと言われていた時代に、フランス発のターゲットプロは高い回転性能で、知名度を上げている。
とにかくハイポテンシャルなラバーで、お値段もそれなりに高かった。ラバーやパッケージにはムッシュ・ビバンダム(ミシュランマン)が入り、ちょっと自慢したくなる卓球ギアだったのを覚えている。
現在は、コニヨール社とミシュランの提携が解消され、商品にミシュランマンの姿は無い。
ただ、ゴムのスペシャリストであるミシュランが、卓球ラバーの開発に進出したことは大きな一歩であり、現在でも他の卓球ブランドの手本となっていることだろう。
■日本のゴムのスペシャリストも卓球に参戦
防振ゴムやホースなど、自動車部品を多く作る住友理工も、卓球ラバーを開発した自動車関連メーカーだ。共同開発の相手はミズノ。
自動車とスポーツという相容れない分野だが、住友理工の防振ゴムのノウハウや材料技術は、国産の卓球ラバー製造に大きく生かされることとなる。
卓球ラバーとして必要なのは、スピードとスピンだ。相手から放たれたボールのスピードを落とすことなく跳ね返し、より強いスピンをかけ返すラバーが、住友理工の力で開発されていく。
求められた性能は、エネルギーロスを限りなくゼロに近づけて、そのまま跳ね返すという、得意の防振ゴムとは真逆のもの。
ただ、これを突き詰めていくときに防振ゴムのノウハウが大きく効いてくることとなる。
そして誕生したのが、2018年に登場したミズノの「Q3」という卓球ラバーだ。その後、後継となるQ4の開発にも住友理工が携わった。反発力が高く日本製で高品質のラバーはたちまち大人気になる。
自動車用ゴム部品の技術は、ゴムが重要な役割を持つ卓球界で、大きく花開いている。今後も同じゴムを使う者同士、技術交流や研究開発が盛んに行われると嬉しい。
卓球を見る際には、ラバー(ゴム)の部分に、より注目してほしいと思う。この分野は、ゴムの性質通り、今後も伸びていくに違いない。
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