トヨタが展開を進める新商品。洒落たトートバッグにティッシュケース、革製のカードケースやペンケースなど。その商品だけを見て「良いものを作るなぁ」では勿体ない。感心するポイントは別にあるのだ!トヨタがクルマを、これからも長く作り続けていくために、解決しなければならない問題へ取り組む姿を紹介していく。
文:佐々木 亘/写真:ベストカーWeb編集部
■劇的ビフォーアフター!廃材に付加価値を与え別の姿に…..
「アップサイクル」という言葉を知っているだろうか。似た言葉のリサイクルは、もう定番の環境活動となった。今回紹介するアップサイクルも、目的はリサイクルに近い。
その違いは、リサイクルが使わなくなったものを一度資源に戻して再利用するのに対し、アップサイクルは資源に戻すのではなく、製品そのものの特徴を生かしながら新しい価値を与えるという点だ。
世の中で見られる取り組みとしては、廃車になるクルマのエアバッグやシートベルトを使って、バッグなどを作る動き。これも立派なアップサイクルなのだが、自動車メーカーのトヨタが目を付けたところは、一味違った。
廃材は廃材でも、使うものは「新車の製造工程で生まれる廃材」なのである。
厳しい基準を超えて、クルマになるはずだった素材が、小さな傷やシワがあるだけで使用できなくなる現実。また、型を抜いた際にできる端材などが、数多く焼却処分されている現実を何とかしたいという想いから、アップサイクル事業が生まれたという。
そこから生まれた商品たちは、素晴らしいの一言に尽きる。高級デパートに置いてあっても違和感のない、珠玉のアップサイクル商品を見てほしい。
■端材の端材まで使うってマジ!?
筆者がトヨタのアップサイクル商品と出会ったのは、6月に宮城県で開催された宮城トヨタグループ(MTG)の主催するイベントでのことだ。
東北最大級、60社以上のパーツメーカーが出店するイベントの、隅の方で異質なオーラを放ったアイテムがあった。
そこには、革製のケースやナイロン製のバッグが並ぶ。バッグ類は触れるとエアバッグのナイロン基布を使用していることがわかり、紐の部分にはシートベルトが使われている。
驚くのはまだ早い。バッグの隣にあるペンケースやカードケースに触れると、筆者にとってなんとも懐かしい触り心地がしたのだ。
カードケースの革が、筆者が数年前まで販売に携わっていた、レクサス車のシートに使われるセミアニリン本革だったのである。
また、赤い革はF SPORTシリーズで使われているシート色「ダークローズ」だ。アップサイクル製品から、こうした発見があるのは、とても面白かった。
さらにIDカードホルダーと栞の関係性にも感嘆。ホルダーの窓部分を作るためにくり抜かれた本革の端材が、栞になっているというではないか。
アップサイクルのために出た無駄な部分を、さらにアップサイクルする意識からは、トヨタの本気度をうかがい知ることができた。
■端材や廃材と分からずとも、売れるモノを作りたい!
イベント当日、商品説明をしてくれたトヨタ自動車新事業企画部の中村主幹は、アップサイクル製品に対する思いを、次のように話す。
「アップサイクルは、新車の製造工程で多くのゴミが出ていることを知り、『こんなに良いものを、こんなに捨ててるのマジか』という気づきから立ち上がった事業です。まだまだスタートをしたばかりで、手探りの状態。これからも、社内だけでなく世の中から多くのアイデアをいただきながら、進化させていきます。生まれた製品が、アップサイクル製品とわからなくても売れるくらいのものを作りたい。それが今の目標です。」
傷やマーキングの跡など、製造過程で生じる様々なモノを、製品の特長として表に出す。それを、自動車製造工程で生まれた「アート」と考えれば、また製品に深みが出てくるだろう。
筆者は手に取ったペンケースとカードケースが愛おしくなり、購入した。製品それぞれに、異なる表情があって、硬さや色味などの違いを楽しめるのも、アップサイクル製品ならではだ。
コメント
コメントの使い方