NTT ComとARAVは、遠隔地から除雪車を操作する実証実験を実施した。「物流の2024年問題」などを背景に大型車両のドライバーが不足している。除雪作業も例外ではなく、遠隔操作や自動運転は人手不足解消に向けたソリューションとして期待される。
約400km離れた場所からの遠隔操作に成功したことで、除雪作業の自動化が一歩前進した。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
画像/NTTコミュニケーションズ・フルロード編集部・Daimler Truck
除雪車の自動運転を目指す背景とは?
NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)とARAV株式会社(以下、ARAV)は、2023年11月22日、千葉県に設置した除雪車を宮城県のコックピットから遠隔操作する実証実験を実施した。
建機遠隔操作システムに加えて、高精度な位置情報把握システムや低遅延での映像伝送などを組み合わせた実証を行なうことで、除雪車の自動運転実現をめざしている。
その背景にあるのが豪雪地帯における除雪作業の担い手不足だ。少子高齢化による経験豊富な作業員の減少のほか、「物流の2024年問題」などもあって大型車両を運転できるドライバー自体が足りず、除雪作業員の確保が難しくなっている。
これらの課題解決に向けて、NTT Comは2022年度に、自治体と連携し5G通信で伝送されるカメラ映像を確認しながら除雪車を遠隔操作する実証実験を実施したが、将来の自動運転を見据えると操作の安全性向上と、より詳細な操作データの収集が必要という課題が見えてきたという。
今回は、NTT Comの各種ソリューションとARAVの建機遠隔操作システムという新たな組み合わせにより、除雪車の自動運転実現にむけた技術検証を行なった。
実証実験の概要と成果
11月22日に実施した実証実験は、宮城県仙台市にあるNTTドコモ東北ビル13Fの「5Gオープンラボ」にコックピットを配置し、千葉県柏市の柏の葉スマートシティ「イノベーションキャンパス地区」内のKOIL MOBILITY FIELDに配置した除雪車を遠隔から操作するというもの。
直線距離にして約400km離れた遠隔地からハンドルやアクセルなどの操作を実施した。
除雪車の遠隔操作には建機遠隔操作システム Model Vを活用した。これはARAVが提供するレガシーな建機にも後付けで装着が可能な遠隔操作装置で、エッジコンピューターやアタッチメントなどのハードウェア、遠隔操作組み込みプログラムのソフトウェア、操作時のインターフェースなどを含んでいる。
映像伝送は株式会社ソリトンシステムズが開発したZao SDK(モバイル回線と小型のシングルボードコンピューターを使用して、超短遅延で映像伝送する機能と制御信号の伝送機能を実現したもの)を使用した。
モバイル回線に最適化した独自の技術を車両搭載用に小型化した機材へ組み込み、無線環境においても低遅延での映像伝送を実現した。これにより高速な光回線を引けない場所でも導入できるようになるため、導入障壁となっていた場所の選択肢の幅を広げるほか、低遅延により安全性向上を図った。
インターネットを経由することなく通信処理を行うことができるdocomo MEC(デバイスにできるだけ近い場所にサーバーを配置し、独自ネットワーク内で通信を行なう技術)を活用することで、外部からの乗っ取り被害の防止と、高精彩映像のリアルタイムな伝送が可能となった。
また、Mobile GNSS(NTT Comが提供する超小型GNSS(衛星測位システム)受信端末)で得たセンチメートル精度の正確な位置情報を使用し、NTT ComのIoTプラットフォーム等を用いて除雪車の位置データや操作データの蓄積及び可視化を行なった。これは、操作のフィードバックによる操作性向上のみならず、自動運転の実現に向けて必要な機械学習用のデータ収集を行なうためだ。
こうしたことから両社は、今回の実証実験の成果を次のようにまとめた。
・導入障壁の低減及び低遅延な映像伝送を実現
・安心安全な通信環境を実現
・高精度な位置情報測位と除雪作業のデータ化を実現
今後、NTT ComとARAVは、除雪作業のユースケースにおける必要な技術的要素や学習データなどをブラッシュアップしながら自動運転実現に向けて取り組むことで、除雪分野の課題解決を目指す。
日本の降雪量は世界有数だが、除雪作業の担い手不足は日本に限った話ではない。将来に向けて新技術による解決を目指しているのは外国でも同じで、例えばドイツではダイムラーが2017年から自動運転トラックによる除雪の研究を行なっている。
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