SeLvプロジェクトについて
SeLvプロジェクトは「電動モジュールと経済的な生産システムを活用した大型車による輸送のゼロエミッション化のためのトラック」を開発するためのもので、ドイツ連邦デジタル・運輸省の支援を受けて2020年8月から2024年末まで4年以上の期間で実施されている。予算は1690万ユーロ(約27億円)だ。
プロジェクトの目的は研究そのものではなく、このパワートレーンを商用化することで、コスト競争力のある形での量産化を目指している。将来的にはアーヘン工科大学からスピンオフしてトラックのコンバージョンやパワートレーンキットを発売することも視野に入れている。
PEMが開発しているモジュラー式パワートレーンの基礎となっているが、用途に応じて燃料電池システムと組み合わせることができる電動ドライブユニットだ。
車両総重量41トンのトラック(トラクタ)を電気で駆動するモジュラー式FCレンジエクステンダー電動ドライブユニットは、新型車と同様に既存車へのレトロフィットも可能なモジュールとすることを目指している。
ドイツ全体の温室効果ガス排出量の20%は輸送部門から出ており、その内の35%を大型商用車が排出している。消費するエネルギーが大きい大型トラックでは燃料電池が優位性を持ち、その脱炭素化において水素技術が重要な役割を担うとされる。とりわけ長い航続距離と重い積載量が必要な車両でその傾向が顕著だ。
また用途にもよるが累計の走行距離が優に100万kmを超え、20年以上使われることもある大型トラックでは、ゼロエミッションの新型車両だけでなく、既存の車両を脱炭素化するソリューションも必要とされている。コスト効率に優れたモジュラー式の電動パワートレーンが市場に存在することが重要なのだ。
プロトタイプのベース車はトルコ製?
なお、SeLvが掲げる研究目的は次の通りで、大量生産も目的の一部となっているようだ。
・パワートレーンのモジュラー式電動化キットと、バッテリー・燃料電池を統合した電動ドライブユニット全体のコンセプトデザインとその実証
・大型トラックにおける異なる水素貯蔵圧の適合性評価
・スケーラブルな燃料電池とバッテリーによって構成されるモジュラー式電動化キットを一貫生産するシステムの設計
PEMが初めてプロトタイプを公表したのは2022年の10月だった。当時は純粋なバッテリー電気トラックだったが、約1年で「FCレンジエクステンダーを備えたモジュラー式電動パワートレーンを特徴とする公道走行可能な大型トラック」というコンセプトを実現した。
試験走行で実際に走ったのは約500kmとのことだが、燃料電池システムと消費エネルギーの予測制御を盛り込んだことで1000kmを超える航続距離も実現可能となった。
ちなみにプロトタイプ車両はトルコのフォード・トラックス製大型トラクタ(「F-MAX」)のようだ。ドイツと言えばダイムラー(メルセデス・ベンツ)やMANといった世界的に大手のトラックメーカーもあるが、あえてトルコ製の大型トラックを使用するのは、どんな既存車にレトロフィット可能というコンセプトを実現するためだろうか?
【画像ギャラリー】モジュラー式レンジエクステンダーEVというPEMのコンセプトトラックを画像でチェック!(5枚)画像ギャラリー