【FCVはトラック界の革命児になれるか?】三菱ふそうがeキャンターF-CELLを発表

■懸念材料の残る水素ステーションに関する技術

 それでもなお、懸念材料は残る。いずれのFCトラックも、1充填での走行距離を確保するため70MPa(メガパスカル=約700気圧)の水素タンクを搭載するはずである。これだけの高圧水素ガスをタンクに充填するには、水素スタンドでは80MPaの高圧で水素ガスを貯めておく必要がある。その水素ガスを圧縮する過程で、ポンプで加圧するわけだが、高圧にすればするほど水素ガスが温度を高め、膨張する。

 温度が上がると膨張する特性は、気体である以上当然の現象だ。たとえば、自転車のタイヤや空気で膨らませる遊具など空気入れを手押しで使った場合、ポンプが熱を帯びることを経験したことがあるのではないか。そして気体は、温度が上がれば膨張する。ポンプで圧縮したいのに、逆に膨張したのでは70~80MPaの高圧水素ガスは貯められない。

一般社団法人 次世代自動車振興センターのまとめでは、現在日本全国に112カ所の水素ステーション(定置式、移動式)がある。法整備は徐々に進んできたが、まだ技術的な課題も多い

 そこで、いずれの水素ステーションでも、プレクールと呼ばれる冷却工程がある。つまり、圧縮しても温度が上がり過ぎないよう冷やしながら加圧しているのである。

 ポンプとプレクールを併用する水素ガスの加圧過程は、圧縮と冷却というふたつの工程で膨大なエネルギーを必要とする。本田技術研究所の試算では、70MPaの水素タンクでFCVを走らせようとすると、かえって二酸化炭素(CO2)排出量を増やしてしまいかねないとしている。

 ホンダは、2008年からリース販売したFCXクラリティでは35MPaのタンクを搭載した。35MPaであれば、プレクールの工程が不要だからだ。しかし、次のクラリティ・フューエルセルでは70MPaタンクを用いた。理由を尋ねると、世界の水素ステーションが70MPa用の基準で設置されたため、やむを得ない措置であるとのことだ。そのうえで、FCXクラリティ時代に70MPaではCO2排出量を増やしかねないという課題を解決できたわけではないとも述べている。

■環境だけでなく運転者にも恩恵のある大型車のEV&FCV化

 大型トラックでの物流において、海外ではトラクターヘッドのEV化も行われており、ドイツでは、スカニアのEVトラクターヘッドに電車のようなパンタグラフを取り付け、架線から電気を得てアウトバーンを走る実験が行われている。バッテリーも搭載しているので、架線を離れてもある程度の距離は走行し続けられる。

 かつて日本でも、戦後にトロリーバスといって架線から電気を得て走る路線バスがあった。もちろん、架線の保守点検をどのように行うか課題もある。鉄道と違い、24時間クルマは走るからだ。一方で、新幹線のように300km/hを架線からの電気で実現する鉄道技術もあるので、基本的に80km/hで走行車線を走行することを前提とする大型トラックやトレーラーの場合、バッテリーや燃料電池スタックの搭載量を減らせられるので、積載荷物の重量制限への懸念が縮小される可能性もあるだろう。

 米国のテスラも、トラクターヘッドのEVを開発していると2019年に報道された。一充電走行距離は、約480~800kmと報じられた。その後のニュースはまだ届いていないが、物流分野での電動化は着実に進む可能性がある。EVかFCVかは、これからの判断となっていくだろう。またトラクターヘッドであれば、総重量から積載荷物の重量を決められてしまうトラックより、バッテリーを多く搭載できることにもなるだろう。

テスラが開発しているEVトレーラー「セミ」。一充電走行距離は、約480~800kmとされているが、詳細がわかる続報がなく本当のところは不明だ

 いずれの場合も、電動化は運転者に嬉しい時代となるのではないか。ディーゼルエンジンに比べ圧倒的に快適性は向上し、動力性能はディーゼル以上に低速トルクが大きいので、アクセル操作への応答もよく、さらに、ワンペダルでの加減速を活用すれば、運転を楽に、かつ安全性も向上する。

 アクセルペダルを戻せば回生が働き、素早く減速に入れるからだ。運転支援機能の導入がトラック/バスでも進んでいるが、アクセルペダルを素早く戻した際に働く強い回生は、危険回避のための初速を下げ、またモーターであればタイヤの滑りも抑えながら速度を落としていくことに役立つ。

 電動トラック/バスの本格的な導入に際しての課題は、何より車両価格と、運航経費である。商用車は、商売で儲けを出さなければならない生産財であり、消費財として消費者の価値観(性能やデザインなど)で価格に対する判断に幅があるのとは違うからだ。明らかにディーゼル車と比べ安くならなければ、運送業者は手を出しにくいだろう。

【画像ギャラリー】三菱ふそう、トヨタ&日野が開発する燃料電池トラックを詳しくチェック!!

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