1958年の誕生から今年3月までに8700万台以上を生産し、現在までに160カ国以上で販売。 耐久性と経済性に優れたモデルで、基本的な設計の多くは2000年代に至るまで継続されてきていた。2011年にホンダが小型二輪車の生産拠点を海外に移管する計画をたて、 ’12年に日本国内での生産終了を発表したものの、後に撤回され、現在も一部が熊本製作所で生産。
特許庁にはこの写真のスーパーカブが立体商標の見本として提示された。
特許庁も認めたホンダのベストセラーバイク
〝働きもののバイク〟の代名詞であるホンダのスーパーカブ。1958年から生産を開始したそのスーパーカブがこのほど、特許庁から立体商標(特許庁 類似商品・役務審査基準第12類「二輪自動車」)として登録された。で、なにが立体商標として登録されたのかというと、スーパーカブ自体の形状だそうな。実はこれ、二輪車としてだけでなく、四輪車を含めたクルマ界全体として乗り物自体の形状が立体商標登録されるのは日本初で、工業製品全般としても珍しい事例なんだとか。
ホンダによると、「50年以上の間、機能的な向上を図りつつも一貫したデザインコンセプトを守り続けた結果としてデザインを見ただけでお客様にHONDAの商品であると認識されるようになったことが特許庁の審査で認められ、立体商標登録に至りました」とのこと。
ちなみに、スーパーカブは輸送用機器として世界最多量産&販売台数を誇り、’12年のモデルチェンジの際にホンダが日本での生産終了を発表した後、方針を転換して現在もなお一部のモデルの生産を熊本製作所で行っている。今年3月時点で8700万台以上の世界生産累計台数に達し、現在までに160カ国以上で販売されているスーパーカブだけに、ホンダとしてもそのデザインを権利化しておきたかったのかもしれない。
ということで特許庁の商品・役務名リストを調べてみると、スーパーカブが立体商標に出願されたのは’11年2月18日。ところが、昨年2月15日に特許庁からの登録が認められず、「拒絶査定」が出されていた。ここで、ホンダは諦めずに昨年5月16日、新たに特許庁に拒絶査定不服審判を請求し、それまで審判官ひとりで判断していたのを今度は審判官3人の判断でお願いしたようだ。
こうした紆余曲折を経て今回、晴れてスーパーカブが立体商標化されることになったワケだが、世界中で販売されるロングセラーのヒット商品なんだからもっと前から出願されていてもいいはずなのに、つい3年前だったとは意外な気がする。
立体商標とは!?
立体商標とは、文字どおり立体的な形状を持つものを対象としており、文字商標や図形商標といった平面商標と同じく登録ができる。モノなどのデザインについては別の「意匠登録」(期間は20年までの有限)で保護されていたのだが、更新手続きさえすれば無期限に商標を維持できる立体商標にすることでデザインについても半永久的に独占できるメリットがある。
ここで気になるのが、もっと以前から立体商標として出願されていてもおかしくないものが、なぜ最近になって認められているのかということ。実はこの立体商標の登録制度※が始まったのは’97年4月。商標制度に関する国際的な調和の必要性などの理由から商標法が改正されてからの実施というから、わりとつい最近なのだ。
で、’97年に出願され、翌年の’98年に登録された立体商標第1号は次のものだった。
① ペコちゃん、ポコちゃんのキャラクター人形(不二家)
② 大隈重信像(早稲田大学)
③ カーネルサンダース立像(ケンタッキーフライドチキン)
④ ソニック・ザ・ヘッジホッグ(ゲームのキャラクター/セガ)
ほかに有名なところでは米コカ・コーラ社の瓶、通称「コークボトル」は米国連邦商標法(ランサム法)で立体商標に認可されており、日本でも’09年4月に立体商標登録されている。コーラ瓶の出願は’03年7月だったので登録までに6年近く要したワケだが、実は特許庁にコカ・コーラ社が申請した当時、似たようなデザインの瓶でほかの会社もコーラ飲料を販売していたことで立体商標の登録が危ぶまれたんだそうな。
その後、コカ・コーラ社の主張が認められて登録されたが、そもそも特徴的なデザインを持つものでも立体商標として認められない可能性がある。現に実際に立体商標として認められる確率はどのくらいなのだろうか。’12年4月現在の特許庁の統計によると、’11年が出願件数191件に対して52件登録の約27%、’10年が出願件数195件に対して82件登録の約42%、’09年が出願件数206件に対して96件登録の約46%と半数以下になっており、必ずしも高い確率ではないことがわかる。
平面商標(文字商標や図形商標など)はおおむね50~80%の登録率なので、立体商標のほうが登録へのハードルがやや高いのだ。それなのに、企業があえて立体商標にトライするメリットはいったいなにか。
デザインについては意匠登録、文字やロゴなどは文字商標や図形商標での保護があるが、意匠登録はモノのリリース前に登録しておく必要性があり、また文字商標や図形商標は他者に先に登録されている可能性がある。このように意匠権や商標権がない場合、オリジナルの立体物でも他者に販売されてしまうのを防ぐことができない。立体商標なら、いわゆる「パクリ販売」を差し止めさせることができるのが大きなメリットになるようだ。
ただし、立体商標もその登録率の低さが示すとおり、商標法上での登録要件がかなり厳しく規定されている。立体的なモノならなんでもOKではなく、誰が見てもわかる目印となるものかどうかを特許庁が見極めてから登録の可否を判断するワケ。
今回のスーパーカブの立体商標登録で、デザインを模倣したバイクの輸入を防ぐことができるようになるが、事実上海外での模倣車の流通までは防げない。そこで立体商標登録制度のある他国でのスーパーカブの登録が注目されるが、ホンダでは「まだ検討段階だが、可能性はなくはない」としている。
いずれにせよ、今回のスーパーカブの立体商標登録がクルマ界にとって画期的なものだったのは間違いない。そうなると他社でも「スーパーカブが認められたのならウチのだってイケるんじゃ?」と、これからバイクやクルマの立体商標の出願ブームが来るのかもしれない!?
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