トヨタはもう単独でスポーツカーを作れないのか?

■トヨタ単独でスープラを作れたハズなのになぜ?

スープラの兄弟車、BMW  Z4。2019年7月から欧州で2L、直4ターボに6速MTを用意するそうだが、スープラには用意されるのか?
スープラの兄弟車、BMW Z4。2019年7月から欧州で2L、直4ターボに6速MTを用意するそうだが、スープラには用意されるのか?

 それでも、86とスープラの2台を俎上に乗せたときに、とりわけトヨタの看板スポーツカーであるスープラを、どうしてトヨタが単独で開発してくれなかったのだろうという思いが頭をよぎるのは否めない。

 もともとトヨタは、ひとつのメーカーのなかに、いくつものメーカーがあるかのようなメーカーだと思っているが、現行モデルを見わたしても、すでにLCやRCのような高級パーソナルクーペを手がけているわけで、スープラだってやろうと思えばいくらでもできたはずだ

 ここで、2018年、グッドウッドで新型スープラを走らせた後、日本に帰国した開発責任者・多田哲哉氏にインタビューした時の内容を紹介しておこう。

「僕は直6、FR以外はスープラではないと思っています。だから直6エンジンを作っているBMWと組めなければこの企画はあり得ませんでした。

 販売台数が少なく、採算を取りにくいスポーツカーは一社単独で作るのは難しい。

 これからも趣味性の高いクルマはどこかと共同で作るというのが重要な手法になると思います。

 そもそもBMWもZ4はもう諦めていて、我々と組むことがなければ生まれてこなかったはずなのです。

 トヨタが久々の本格的FRスポーツを復活させ、BMWがZ4を存続させるためには最適の方法だったのです。

 僕は86をスバルと共同開発しました。その時には他社と組んでクルマを作ることの大変さを思い知りましたが、BMWとの仕事の大変さはその比ではなかったですね。

 初めてBMWのスタッフと顔を合わせたのが2012年のこと。その時にはどんなクルマを作るかの青写真もなく、ただ『一緒にやろう』というだけだったのですが、その後『ポルシェに負けないスポーツカーを作りたい』と言ったら鼻で笑われました。

 『俺たちはポルシェもメルセデスもライバルと思ったことはない。BMWはBMWの道を歩んでいるんだ』と。

 まずはお互いのクルマを知ろうということで自社のクルマを持ち合って試乗会を開いたのですが『トヨタ車に乗るのは初めて』という人ばかりで、86に乗って『意外とまともだね』なんて言われたり。今ではすごく仲良くやっていますが、はじめの2年は本当につらかったですよ。

 でもBMWのクルマ作りはすべてが衝撃的でした。BMWは設計図をトヨタの2倍作り、徹底的にシミュレーションを重ねます。テストカーを作る時には問題点はほとんど消されているのです。

 役割分担は企画がトヨタ、設計、生産がBMWで、スバルと組んだ86/BRZと同じやり方です。

 ただ、ベース車の開発はBMWですが、そこから先はスープラとZ4はまったく別に開発を進めていて、互いに相手がどんなクルマを作ろうとしているのか知らないくらい。

 共通のパーツを多用して安くしようという発想もありませんから内外装もまったく違うし、シフトノブも別のものを使っています」。

 このインタビューからBMWとコラボがいかに難しいか、苦労した状況や、それでも単独でスープラを開発しようとしなかった理由が紐解けたのではないだろうか。話をまとめてみよう。

 まずはマーケティングという根本的な問題だ。

 自動車メーカーも商売としてクルマを売る以上、莫大な開発費をかけて、それが回収できる見込みがなければ、あえてそこにチャレンジする必要はない。

 むろん、こうしたスポーツカーの市場が世界的にけっして大きくはないのは、いまに始まったことではない。

 仮にたとえスープラがどれだけ出来がよくて評判になったとしても、トヨタにとって満足できるほど売れるわけでもない。

 さらには、開発費を抑えるために、RCのようにすでにあるコンポーネンツを活用して、デザインや乗り味を専用に変えて出すという手もあっただろうが、それではあえてスープラとして出す意味がないとトヨタとしても考えたのではないだろうか。

 スポーツカーがビジネスには不向きであることは重々承知していても、できれば本心ではスポーツカーをラインアップに持ちたいと思わずにいられないのもまた、トヨタに限らず自動車メーカーの性(さが)に違いない。

 お互いの思惑の一致とともに、スープラを復活させるにあたって、トヨタとしてもこれまでやったことのない新しいものにチャレンジし、そこで得たものを今後のために活かしたいという考えもあったことだろう。

次ページは : ■スポーツカーの分野で新しい動き

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