日産バッシングの誤解とミスリード 事実を見れば「再建は可能」な理由とデータ

日産バッシングの誤解とミスリード 事実を見れば「再建は可能」な理由とデータ

 2025年2月13日、ホンダの三部敏宏社長と日産の内田誠社長がそれぞれ会見し、昨年末から進めていた「両社の経営統合に関する検討」を終了すると発表。多くの人がSNSなどで「日産がホンダに頭を下げなかったせいだ」、「日産の経営陣は総退陣すべき」と言っているが、果たして日産の経営は本当に危機的状況なのか? 日産の現経営陣は大きな失策をしており再建策は役に立たないのか? 以下、自動車経済に詳しい池田直渡氏に分析していただいた。

文:池田直渡/画像:日産自動車、本田技研工業、ベストカー編集部

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一部報道で「消滅」「解体」とまで書かれた「日産経営再建計画」を真剣に読むと……これイケるのでは?

 さて、前編ではホンダと日産の統合をぶっ壊したのは大手メディアのでたらめ報道であることを解説した。

【参考記事】「日産が悪い」は本当か? ホンダとの経営統合破談のウラにメディアが隠した事実

 では日産の経営はどうなのか、日産のいう再建計画「ターンアラウンド」は現実的な話なのか、について解説しよう。

 まず、日産の営業利益を急落させた主要因は米国での値引き(インセンティブ)である。

 少し時間軸を戻らないと話がわからない。日産が現在の苦境へと陥った原因は、ゴーン体制下で新興国投資の費用を捻り出すために、屋台骨であるはずの日米での新車リリースを凍結し、その結果車齢の高い古いクルマで戦わなければならなくなり、やむなく値引きをし過ぎたためだ。これによって2019年度と2020年度の連続赤字決算へと転落した。

 このどん底でバトンを受け取った内田誠社長は、就任後わずか3年で15車種の新型車をリリースし、2年連続の赤字からV字回復を演じて見せた。

内田誠氏は2019年12月に日産自動車代表執行役社長兼最高経営責任者へ就任。新興国への巨額投資に失敗し、犠牲になった日米の主力マーケットでの新車投入凍結でダウンした商品力の影響で、2019~2020年は赤字決算。しかし2021年度は黒字転換し、以後も継続的に新車を発表。2024年度もグローバルで上記新型車を発表
内田誠氏は2019年12月に日産自動車代表執行役社長兼最高経営責任者へ就任。新興国への巨額投資に失敗し、犠牲になった日米の主力マーケットでの新車投入凍結でダウンした商品力の影響で、2019~2020年は赤字決算。しかし2021年度は黒字転換し、以後も継続的に新車を発表。2024年度もグローバルで上記新型車を発表

 しかも天佑というべきか、ここで半導体不足によって、全世界的なクルマ不足が起きる。新型車に切り替わり戦闘力が増した日産車は、タマ不足を背景に、値引きなしでの販売を成功させ、その結果前編で書いたとおり、近年稀に見る好決算を叩き出した。それが昨年5月の決算発表である。

 ところが米国マーケットは日本と販売方法が違う。日本ではディーラーにきた客がクルマを注文してから生産するのだが、米国ではディーラーが予め売れ筋の色やグレードを読んで発注し、店頭在庫の中から客がクルマを選ぶ。つまりタマ不足は値引きをしないで売れる反面。店にやってきた客は店頭に在庫がないと他の店に行ってしまう。だからなんとしても在庫を確保したい。日産系列に限らず全米の自動車ディーラーが、見込み発注を大量にかけて、手元のタマを用意しようとした。

 そこで半導体不足が解消すると、一気に生産が回復し、過剰に発注していたクルマがどんどんディーラーに到着する。当然、どこの店でも過剰在庫状態になる。慌てたディーラーは、一気に値引きをしてクルマを売り捌こうと焦った。

 多かれ少なかれどのメーカーもこの時期米国での値引きで苦しんだが、この値引きのコントロールの優劣が上半期決算を左右した。日産はそこで他社以上に大きくコントロールを誤り、過剰値引きで利益を一気に落とした。これが上半期の利益99%ダウンの原因である。

日産の今後の商品戦略を占う「新型(第三世代)e-POWER」。2025年度から投入され、2026年度に日本市場へ投入される「大型ミニバン」(おそらく次期エルグランド)にも搭載予定。高速燃費15%向上
日産の今後の商品戦略を占う「新型(第三世代)e-POWER」。2025年度から投入され、2026年度に日本市場へ投入される「大型ミニバン」(おそらく次期エルグランド)にも搭載予定。高速燃費15%向上

 さて、逆に言えば、この値引き問題を解決すれば、日産の決算は回復可能である。

 もちろんそれが主要因であるだけで、他にも問題はある。いま話題になっているとおり、役員が多すぎるのも問題だし、サプライヤーに対して、必要な部品の数量を正確に予想伝達することができず、過剰に伝えて、実際の発注数が少なく、それによる違約金でも経営を圧迫している。そういう諸問題はあるのだが、主要因は何度も書いているとおり値引きの問題だ。

 赤字からの回復に最も重要なのは、経費の削減である。もちろん売り上げを増やせればそれに越したことはないのだが、売り上げ増はいつも水物で、確実性が薄い。それに引き換え経費の削減はやればやったぶんだけ確実に減るのだ。

 内田社長は、ターンアラウンド計画で現在の実際の生産台数340万台を基準に、生産規模を350万台へ縮小する計画を立てた。これは手元の実績に則った堅実な戦略である。ただし、日産は2019年、2020年の赤字からの回復で、すでに生産能力を720万台から500万台へと引き下げている。この上さらに350万台へ引き下げると、身を縮めすぎで、次のジャンプができなくなる。350万台は短期的目標であり、そこから反転して450万台までは成長させたい。その成長余地ぶんは削らずに維持しておかないと、黒字化と引き換えに縮小均衡に陥ってしまう。

 もちろん一度小さくしてから再度投資ができる余力があるならそれでいいのだが、日産の資金力は当分厳しい。なので450万台ぶんの生産設備の回転速度を落として350万台で回す。ゆっくりと回すならばラインに貼り付ける人数を減らせる。9000人のリストラの一部はこのライン要因である。

 変動費を1000億円、固定費を3000億円以上削減することで、赤字・黒字の運命を分ける損益分岐台数を250万台のラインまで引き下げ、350万台体制でも十分な利益が出せる形へ持っていくというのが日産のターンアラウンド計画である。

日産の再建計画「ターンアラウンド」。固定費を3000億円以上、変動費を1000億円削減する計画。いずれも「2026年までに」と期限がもうけられており、この計画の進捗や可能性を現時点で「達成できないだろう」と断じる人がいたら、何を根拠に言っているか注意しましょう
日産の再建計画「ターンアラウンド」。固定費を3000億円以上、変動費を1000億円削減する計画。いずれも「2026年までに」と期限がもうけられており、この計画の進捗や可能性を現時点で「達成できないだろう」と断じる人がいたら、何を根拠に言っているか注意しましょう

 基本、実績値をベースに台数を見込んでいるところから見て、希望的観測ではなく、リアルな数字をベースにしていることがわかる。筆者には、少なくとも今回の日産バッシングが始まる以前の話としては、十分実現可能なプランに見える。

 問題は今回のバッシングで、「日産が今にも潰れる」と誤解したマーケットがクルマを買い控えることだ。もしそういう動きが出ると、可能な再生計画も不可能になる。まさにメディアによる風評被害である。

 また銀行のコミットメントラインも、あまりに妙な報道が続くと打ち切られることがありうる。これは極めてまずい。

 兎にも角にも、今の日産の状況は、世間が思っているより遥かに傷が浅いということを早く周知させないと、風評で本当に厳しいことになりかねない。メディア各社はいい加減日産の足を引っ張るのを止めにして、ファクトを誠実に伝えていただきたい。

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