日産はいつもの日産だった 日産ホンダ経営統合計画の破談と今後

日産はいつもの日産だった 日産ホンダ経営統合計画の破談と今後

 ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説すると好評だ。第40回となる今回は、破談に終わった日産・ホンダ経営統合計画の今後について。

※本稿は2025年2月のものです
文:中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)/写真:ホンダ、日産 ほか
初出:『ベストカー』2025年3月26日号

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■日産の現在の苦悩は未来のホンダの姿でもある。何か違った妥協点を探れなかったのか

日産、ホンダの提携戦略の動き
日産、ホンダの提携戦略の動き

 ホンダと日産は正式に経営統合に向けた基本合意書(MOU)を破棄しました。

 日産の取締役会は経営統合を破棄することでコンセンサスができ、その意向は2月6日にホンダ側に伝えられていました。13日には両社の取締役会で破談が決議されたのです。昨年12月23日の検討表明から、わずか53日で終了した統合協議でした。

 決裂の原因はふたつあるでしょう。

 第一に、危機意識の温度差に加え、構造改革を進めるスピード感においても意見が一致できなかったことです。

 第二に、ホンダの「理詰め」と日産の「プライド」が衝突し、最後は感情的な幕切れとなった様子です。

 日産の救済とか、政府が主導したようなメディアの憶測はまったく事実とはかけ離れていると筆者は考えてきました。

 台頭を続ける中国メーカーと新興勢力、人工知能が加速化させる自動運転技術、テック企業に牛耳られる基幹技術とデータ/計算基盤など、100年に一度と言われる自動車産業の大変革は勢いを増しています。

 「呉越同舟(ごえつどうしゅう)」という言葉どおり、不仲であっても危機に直面すれば互いに協力し合う関係になれると考えたわけです。

 経営力に欠ける日産はいち早く競争力を失い、業績悪化に歯止めがかかりません。

 その弱みを突こうとするアクティビストファンドや自動車産業への参入に意欲を燃やす台湾の鴻海精密工業から身を守り、安定した経営体制の下で再建に集中したかったのが日産です。

日産 内田誠CEO
日産 内田誠CEO

 日産の現在の苦悩は未来のホンダの姿でもあります。ホンダも生き残りをかけた電動車、ソフトウェア投資を実行できるパートナーとして日産は理想的でした。統合が実現すれば、国内自動車産業の持続的な発展に資するものとなったでしょう。

 ただし、実現には条件がありました。日産が自らの努力で経営再建を果たすことです。

 「日産のターンアラウンドは統合に向けての絶対条件」とホンダの三部敏宏社長が昨年の会見で言い切ったように、これができなければ破談もあり得るという条件付きの統合交渉であったわけです。

 再建計画が充分であったか否かより、問題は日産の意思決定のメカニズムの不透明性と意思決定スピードにあったようです。

 なぜホンダがここにこだわるかと言えば、持ち株会社を設立する2026年8月まで、ホンダは日産のガバナンスに直接関与ができないのです。日産の意思決定のスピードが遅く、ポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)に時間がかかれば統合の成果を享受することが遅れるためです。

 動きの鈍い日産の経営陣に対し、理詰めで邁進し相手を追い込むという、ホンダの強みでもあるが弱みともいえる企業行動が止まらなくなります。「決めろ」「決めろ」と日産をどんどん追い込んだシーンが容易に想像できます。

 それでも決められない日産に対し、ホンダは日産のガバナンスに直接、すぐにでも介入できる子会社化を1月後半に提案したわけです。

 しかし、日産はこの提案がMOUの精神に外れ、日産の自主性が守られ、かつ自社が持つポテンシャルを最大限引き出すことができるのか、日産の内田誠CEOは確信を持つに至らず破談となったと説明しています。

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