トヨタ博物館にて世界一美しい自動車の写真集が1万円で発売!


 トヨタ博物館(愛知県長久手市)が2年の歳月をかけて取り組んだ、あまりにも美しい写真集が発売された。とにかくもう美しすぎて見始めると時間がワープする。

 ただ何も考えずに見ていてもウキウキするのに、じっくり考えるとそこにさまざまな「文脈」が浮かんでくる。

 そんな「美しくて深い」写真集を紹介したい。何しろ写真集などの重厚な本が大好きな本企画担当、やや熱い解説になっていますのでご注意を。読者プレゼントもあるのでお楽しみください!

 文:Web編集部 写真:中里慎一郎、トヨタ博物館提供


車好き、写真好きなら身悶えする写真集

 「車を美しく撮影した写真集があったら何時間でも見ていられる」という自動車ファンは数多くいるだろう。かくいう本企画担当者もそのひとり。

 時間や手間やお金(製作費)がかかっている重厚な写真集を眺めていると、寝食を忘れて見入ってしまう。

 そんな本企画担当がこれまで見た写真集の中でも、指折りの逸品が発売された。トヨタ博物館が思いっきり本気で作った写真集『The Museum of MOTION』(※)がそれだ。

 何しろ巻頭コメントがトヨタ自動車取締役会長・内山田竹志氏と、取締役社長・豊田章男氏が並んでいる。この時点で完全に本気だとわかる。

 ※ 本写真集タイトルの「MOTION」は、トヨタ博物館が収蔵車を動態保存していることや、車の動き、車に乗る人、見る人、楽しむ人の心の動き「EMOTION」にもつながる言葉として名付けられているそう。

 写真集好きな本企画担当としてはこの写真集のどこから紹介していいか迷うところだが、まず真っ先に伝えておきたいのは「構成の妙」。

 単にトヨタ博物館の収蔵車を時系列で紹介しているわけではなく、見開きごとにテーマがあって、それに沿った車両が2〜3台組み合わさって撮影されている。

 例えば「歴史的1500万台量産車」と題されたページには、フォードモデルT、フォルクスワーゲン38プロトタイプ(レプリカ)(いわゆる「ビートル」)、トヨタカローラKE10型の3台が並ぶ。

 この、製造メーカーも製造年もエンジン形式もまったく違う3台が「歴史的な量産車」として並ぶと、そこに不思議な共通点が読み取れるようになる。

 むろん写真集には3台並んだ写真だけでなく、1台1台の特徴をとらえたそれぞれの美しいカットが並ぶ。

 もうひとつ例をあげるなら、「国産スポーツカーの開花」というページ。こちらはダットサンフェアレディとホンダS500、トヨタスポーツ800 UP15型が並んでいる。

 1963〜65年に続けて発売されたこの3台が並ぶと、そこに「鈴鹿サーキット1962年完成」、「第1回日本グランプリ1963年開催」という、日本自動車史の大きな「うねり」が見えてくる。

 そう、この3台から始まった「何か」は、今の多くの国産スポーツカーのなかに脈々と受け継がれているのだ。少なくともそれが実感できるだけの「物語の強さ」が、このワンカットに込められている。

三層構造の「楽しみ方」を持つ写真集

 時代を超えたそれぞれの組み合わせを楽しんだら、今度は全体を通して見てほしい。

 収蔵車の中から選び抜かれた85台、226枚のカットが並ぶこの写真集は、1886年製のベンツパテントモトールヴァーゲン(レプリカ)から始まり、2014年に発売された世界初の水素燃料量産車であるMIRAIで終わっている。

 この写真集は「小倉百人一首」のように、(※2)「それぞれの車の美しさ」、「複数の車の組み合わせ」、「全体を通した自動車の大きな流れ」という、三層構造の「楽しみ方」を持っている。

 ※2 余談ではあるが本企画担当の趣味なので触れておくと、小倉百人一首も個々の和歌の美しさに加えて、作者同士で親子関係やライバル関係、カップルなどの組み合わせの妙があり、

 さらに一番歌の天智天皇(西暦626年生)から百番歌の順徳院(西暦1197年生)まで緩やかに和歌の歴史が流れている……という構成を持つ。

 もちろん個々の写真も溜め息が出るほど美しい。数千枚の撮影ショットの中から選び抜かれた226枚の写真は、どれも撮影者と編集者の意図が込められている。

 例えばトヨダAA型はトヨタ創業の地である豊田自動織機旧試作工場(現・愛知製鋼(株)刈谷工場内)に持ち込まれて撮影されており、ここにトヨダAAを運び入れた撮影は、関係者のあいだで「80年ぶりの里帰り」と言われたそう。

 なんというこだわり!

 素材(この場合はもちろん車)の特徴や機能性を際立たせ、歴史的な意義や構成の妙を簡潔かつ力強く表現している解説文も、本写真集の醍醐味のひとつだ。

 主張しすぎず、かといって物足りないわけではない。理想的な解説文といえよう。

 さらにさらに、どうしても触れておかなければいけないのが、この写真集の「質感」。ハーフスリーブタイプ(※3)の箱入り上製本、かがり綴じ+フォローバック+PUR糊貼りあわせ……と書くと編集者や製本・印刷業者以外はチンプンカンプンだろうから荒っぽくまとめると、

 製本と紙選びにめちゃくちゃ手間とお金をかけているので(単行本を作った人間なら触った瞬間わかるレベル)、表紙周りの肌触りと写真の発色がめちゃくちゃいい。

 ※3 本写真集独自の「外箱」は珍しいハーフスリーブタイプ(本を上から差し込んで下半分を支える形式)。

 長期保存で本がたわむことを防ぐため、内部に「支え」が装着してある。外箱の印刷はスミ2回、グレー1回の計3回インクを重ねることで、深みのある漆黒を表現しているそう。懲りまくりだ。

 特に表紙周りの手触り(表1、背、表4の模様は本写真集内で多くの車両が撮影されたトヨタ博物館玄関前のアスファルトの模様を元に作製したエンボス加工)は、思わず頬ずりしたくなるほどしっとりとしていて滑らか。

 ここらへん、本書の企画・編集を担当したトヨタ博物館の布垣直昭館長は初代ハリアーの担当デザイナーだった、という来歴を聞くと「そうかなるほど」とうなずくことができる。

 高級車のデザイナーって、質感に関してはプロ中のプロなのだ。しかしそんな人物が製作に2年以上かけて写真集の企画・編集を担当するって、贅沢すぎないか。

 これは本企画担当が長く「紙の本の編集者」だったからこそ力強く言いたいのだが、IT革命で世界中をインターネットが覆い尽くしてもなお、この写真集のように丁寧に手間をかけて作られた本は残っていくだろう。

 この手触り、この写真の質感、製本の耐久性、ページをめくる楽しさこそが、「本」という文化が数千年かけて作り出したメディアとしての強さだからだ。

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