トヨタ副社長制度を電撃廃止!! どうなる「トヨタ改革」の行方

 2020年1月6~9日、アメリカ、ラスベガスで開催された「CES((コンシューマー・エレクトロニクス・ショー・ラスベガス)」にて、まだ新型コロナの影もなかった頃、トヨタはいきなり「富士の裾野に都市を作る」と宣言し、クルマファンのみならず世界中の人を驚かせた。

 そんなトヨタから、今度は「副社長廃止」という内部改革についてのニュースが入ってきた。その真意ははたしてどこにあるのか? 「トヨタ改革」のこれまでとこれからにモータージャーナリストの桃田氏が迫る。

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※本稿は2020年3月のものです
文:桃田健史/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2020年4月26日号


■社長以下は「同格」。

 そんなタイトルが3月上旬、経済メディア上で踊った。

 新型コロナウイルスによる、全国小中高校の休校、マスクやトイレットペーパーの供給不足、世界的な株価下落など、社会的に極めて大きなニュースが連日流れていた。

 にもかかわらず、Yahoo!などのネットニュースランキングでは、トヨタの副社長制度廃止ネタが上位に食い込んだ。

 トヨタのニュースリリースのタイトルは「役員体制および幹部職の担当変更」。具体的には、副社長と執行役員を執行役員に一本化、という点がメインだ。

 このニュース、なぜそんなに注目されるのか?

 まあ、いわゆる記者クラブ系の朝日、読売といった新聞大手や、共同や時事などの通信社の経済記者にとって、トヨタ上層部人事は最重要級ネタだ。

トヨタが東富士に作るという「CASE」実証都市「Woven City」

 各社のトヨタ番記者は日頃から、中京地域のトヨタ幹部宅に夜討ち朝駆け、なんていう旧態依然な取材から人事ネタを含めた特ダネを探している。

 そのほか、日経ビジネス、東洋経済、ダイヤモンドなど経済系雑誌各社にとっては「自動車メーカー特集は部数が伸びない」と社内で言われ続けていても、トヨタの次期社長がらみの役員人事ネタはおいしい別腹だ。

 一方、本誌読者の皆さんのようなクルマ好きにとって自動車メーカーの役員人事にあまり興味はないはず。

 だが、今回の発表はトヨタの近未来に直結しており、つまりはトヨタ単体だけではなく、ダイハツ、スバル、マツダ、スズキなどすでにトヨタとつながりがあるメーカーのモデルにも大きな影響を及ぼす可能性がある。今後の、あなたのクルマ生活にも深く関わる話なのだ。

■役員数の大幅削減は経済界の時流

 では、改めてトヨタの役員構成を見ていこう。

 トヨタグローバルサイトで、企業情報→会社概要→役員と順に進むと、取締役・監査役の一覧が出てくる。

 本稿執筆の3月中旬時点では、代表取締役が、会長、副会長、社長ともうひとりで合計4人、取締役5人、常勤監査役3人、監査役3人となっている。

 次に日常業務に携わる執行役員は、社長、副社長6人、技術を総括する立場のエグゼクティブフェローひとり、執行役員が18人、そしてシニアフェローがひとりである。

 4月1日付での役員体制では、副社長のポストがなくなる。現在6人の副社長のうち、吉田守孝氏とディディエ・ルロワ氏が退任。

 残り4人の副社長は、河合満氏(チーフ・ものづくり・オフィサー兼チーフ・ヒューマンリソース・オフィサー)、小林耕士氏(チーフ・リスク・オフィサー)、寺師茂樹氏(チーフ・コンペティティブ・オフィサー兼チーフ・プロジェクト・オフィサー)、そして友山茂樹氏(チーフ・インフォメーション&セキュリティ・オフィサー兼チーフ・プロダクション・オフィサー)となる。

 トヨタの人事と組織再編を振り返ってみると、豊田章男氏が2009年に社長就任して以来、大きな変化があった。

 主な動きでは、2011年に当時は27人制だった取締役会を11人にスリム化。組織担当役員を廃止し、副社長と本部長の2階層に展開。

 2016年にはカンパニー制に以降し、機能軸から製品軸へとシフトした。2019年には専務執行役員と常務執行役員の制度がなくなり、副社長と執行役員の2階層となった。

 中京地域の人にとって、理想的な人生設計と言われるパターンがある。

 名古屋大学を優秀な成績で卒業して、トヨタ本社に入社。地元出身の女性と結ばれ、藤が丘など閑静な新興住宅地で駐車スペースが2台以上の一戸建てに住む。50代でトヨタで役員となり、子会社の社長に転じてハッピーリタイアメント。

 こうした夢の階段が今後、通用しなくなるかもしれない……。

 豊田章男社長は今回の人事に関して「トヨタが継承してきたよいところはいっそう強化し、充実していく。一方、これまでの悪い慣習は、私の代で一気にやめて、トヨタらしさを取り戻す」と、トヨタらしさの重要性を強調した。

 さらにこう続けた。

「それをしなければ、次世代にタスキをつなぐことはできないというのが私の正直な気持ちです。~中略~さらに階層を減らすことによって、私自身が、次世代のリーダーたちと直接会話をし、一緒に悩む時間を増やすべきと判断しました」

■今後のトヨタはどうなる? 次期社長は?

 豊田社長が言う「一緒に悩む時間」。これこそ、トヨタの実情を明確に表現している言葉だ。トヨタは今、将来に向けて大いに悩んでいる、のである。

トヨタ 豊田章男社長

 そう書くと、CASEやMaaSといった言葉を思い浮かべる方が多いと思う。通信によるコネクティビティ、自動運転、シェアリングエコノミーなどの影響による新ビジネス、そしてパワートレーンの電動化を、ダイムラーがCASE(ケース)と名づけ、近年では一般名詞化している。

 また、公共交通再編やサブスクなど、社会における乗用車を含めたクルマと社会との関係を見つめ直そうというのが、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス:マース)である。

 筆者(桃田健史)は世界各地で、CASEやMaaSの実態を定常的に取材している。さらにトヨタを含めた日系メーカーとは取材のみならず、さまざまな形で将来事業に対する意見交換も行っている。

 そのうえで、こう思う。

 過去50年間で、日系自動車メーカーは事業規模があまりにも大きくなった。そのなかで、単体で30兆円級のメガ事業体となったトヨタが、トヨタアライアンスというプラットフォーム型事業として、日本自動車産業を本気でけん引しなければならなくなってきた。

 そうしたなかで、最も気になるのは「本当にトヨタは現業から大きく転換できるのか?」という点だ。

 自動車メーカーはクルマの製造と卸販売が本業である。株式市場における評価は、新車販売台数と年間総売り上げ額の前年期比が主体である。

 数を売るために、エントリーモデルから上級モデルまで車種を拡張し、収益性の高いファッショナブルモデルやスポーティモデルを合わせてラインナップしてきた。

 そのなかで、トヨタは近年、部品調達と製造での効率化を図るため、86/BRZ、ライズ/ロッキー、スープラ/Z4などの他社とのOEM生産を実施してきた。

 それでも、トヨタ全体としてみると、クルマ本体の製造コストは上がるばかり。

 衝突被害軽減ブレーキなどの先進的運転支援システムの高度化、衝突安全用の車体構造設計や高度なエアバックの搭載、そしてDCM(データ・コミュニケーション・モジュール)などの車載データ通信機器の搭載など、さまざまある。

 車両本体のコスト削減が難しいなか、部品調達や流通でもトヨタの大変革が進む。

 アイシン精機とアイシンエイダブリュとの合併や、2020年5月での全車種全店舗併売による事実上のディーラー網の再編などである。

 こうして、トヨタは現業の維持・効率化と、まだ先がよく見えない次世代ビジネスへの転換を同時に進めなければならない。だから、悩む。

 自動車産業の大転換期で、トヨタとしては今回の役員人事による体制が、現状でのベストソリューションだと考えている。

 もちろん、トヨタの真骨頂である「現地現物現人」によって、役員のみならず社内体制はさらに変化していくことは間違いない。

 その過程で、豊田章男社長が、次の社長の座というタスキを誰に手渡すのか?

 業界内およびトヨタ社内でさまざまな噂があることを、筆者として承知している。新役員体制となる4月1日以降、トヨタがよりよい方向で“将来に悩む”ことで、おのずと次期社長も適材適所で決まることになるだろう。

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