■今後のトヨタはどうなる? 次期社長は?
豊田社長が言う「一緒に悩む時間」。これこそ、トヨタの実情を明確に表現している言葉だ。トヨタは今、将来に向けて大いに悩んでいる、のである。
そう書くと、CASEやMaaSといった言葉を思い浮かべる方が多いと思う。通信によるコネクティビティ、自動運転、シェアリングエコノミーなどの影響による新ビジネス、そしてパワートレーンの電動化を、ダイムラーがCASE(ケース)と名づけ、近年では一般名詞化している。
また、公共交通再編やサブスクなど、社会における乗用車を含めたクルマと社会との関係を見つめ直そうというのが、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス:マース)である。
筆者(桃田健史)は世界各地で、CASEやMaaSの実態を定常的に取材している。さらにトヨタを含めた日系メーカーとは取材のみならず、さまざまな形で将来事業に対する意見交換も行っている。
そのうえで、こう思う。
過去50年間で、日系自動車メーカーは事業規模があまりにも大きくなった。そのなかで、単体で30兆円級のメガ事業体となったトヨタが、トヨタアライアンスというプラットフォーム型事業として、日本自動車産業を本気でけん引しなければならなくなってきた。
そうしたなかで、最も気になるのは「本当にトヨタは現業から大きく転換できるのか?」という点だ。
自動車メーカーはクルマの製造と卸販売が本業である。株式市場における評価は、新車販売台数と年間総売り上げ額の前年期比が主体である。
数を売るために、エントリーモデルから上級モデルまで車種を拡張し、収益性の高いファッショナブルモデルやスポーティモデルを合わせてラインナップしてきた。
そのなかで、トヨタは近年、部品調達と製造での効率化を図るため、86/BRZ、ライズ/ロッキー、スープラ/Z4などの他社とのOEM生産を実施してきた。
それでも、トヨタ全体としてみると、クルマ本体の製造コストは上がるばかり。
衝突被害軽減ブレーキなどの先進的運転支援システムの高度化、衝突安全用の車体構造設計や高度なエアバックの搭載、そしてDCM(データ・コミュニケーション・モジュール)などの車載データ通信機器の搭載など、さまざまある。
車両本体のコスト削減が難しいなか、部品調達や流通でもトヨタの大変革が進む。
アイシン精機とアイシンエイダブリュとの合併や、2020年5月での全車種全店舗併売による事実上のディーラー網の再編などである。
こうして、トヨタは現業の維持・効率化と、まだ先がよく見えない次世代ビジネスへの転換を同時に進めなければならない。だから、悩む。
自動車産業の大転換期で、トヨタとしては今回の役員人事による体制が、現状でのベストソリューションだと考えている。
もちろん、トヨタの真骨頂である「現地現物現人」によって、役員のみならず社内体制はさらに変化していくことは間違いない。
その過程で、豊田章男社長が、次の社長の座というタスキを誰に手渡すのか?
業界内およびトヨタ社内でさまざまな噂があることを、筆者として承知している。新役員体制となる4月1日以降、トヨタがよりよい方向で“将来に悩む”ことで、おのずと次期社長も適材適所で決まることになるだろう。
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