足りなかったのは「データへの誠実さ」…豊田自動織機不正で10車種出荷停止のトヨタ佐藤社長が会見

足りなかったのは「データへの誠実さ」…豊田自動織機不正で10車種出荷停止のトヨタ佐藤社長が会見

 2024年1月29日、豊田自動織機は日本市場向け産業車両用ディーゼルエンジンおよびガソリン・LPGエンジンの国内の排出ガス認証申請における調査報告書を受け取った。その報告書にはトヨタ向けに出荷しているディーゼルエンジンの認証試験数値についても不正があったことが発覚。これを受けて豊田自動織機は当該エンジンの出荷を停止、同時にトヨタ自動車も当該エンジンを搭載する世界10車種(国内6車種)の出荷(生産)を停止した。この不正を受けて、トヨタ自動車の佐藤恒治社長が都内で記者の取材を受けた。以下、速報でお伝えします。

文/ベストカーWeb編集部、写真/トヨタ自動車、ベストカー編集部

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■今後の影響台数は国内月間7000台、世界3万6000台に及ぶ

「改めまして、心よりお詫びを申し上げたいと思います。大変申し訳ございません」

 記者の前に現れた佐藤社長は、深々と頭を下げた。会見が行われたのは、約二週間前の1月16日、ダイハツ工業の認証試験不正が発覚して国交省からの是正命令を受け取った際に謝罪したのと同じ場所だった。

 調査委員会の報告書によると、トヨタ向けディーゼルエンジンに豊田自動織機が手を染めた不正は、わずかな誤差、出力トルク計測データのバラつきを抑えるためのものだった。

「(トヨタへ提出する書類に記載するため)確実にデータ内に収めたかった」、報告書にはそう記されている。

 不正発覚後、トヨタ自身が当該エンジンの抜き取り検査を実施したところ、出力値は問題ない範囲で収まっており、「(該当車種をお乗りの皆さまには)ただちに使用を停止していただく必要はございません」というレベル(この後、トヨタは公式リリースで「該当車両をご愛顧いただき、長らくお持ちいただいているお客さまをはじめとするすべてのステークホルダーの皆様に、多大なご迷惑、ご心配をおかけしておりますことを、深くお詫び申し上げます」と続けている)。

 しかし結果としてハイエース、ハイラックス、ランクル300といった人気車種の出荷(生産)が止まることになった。該当するエンジンは「1GD型」、「2GD型」、「F33A型」で、既納車は2022年度の国内だけで8万4000台。今後の影響台数は国内月間7000台、世界3万6000台に及ぶ。

記者からの質問に応じる佐藤社長。エンジニア出身だけに今回の不正の内容を細かく把握し、説明してくれた
記者からの質問に応じる佐藤社長。エンジニア出身だけに今回の不正の内容を細かく把握し、説明してくれた

 不正をしなくても基準内に収まる性能なのに、不正をして、結果、ユーザーに甚大な迷惑をかけている。

「今回の豊田自動織機による認証不正の原因を、佐藤社長はどのようなところにあるとお考えですか」

 質疑応答で記者がそう問うと、

「まずはトヨタと豊田自動織機のあいだでコミュニケーションが圧倒的に足りなかった、ということが挙げられます。トヨタ車に載せるエンジンについて、豊田自動織機が認証試験データを作成する場合、手順書というものをトヨタから渡して、それに沿って試験し、データを作成いたします。本来であればこういった手順書を渡すだけでなく、両社でもっとコミュニケーションをとって、改善していくためにも両者でもう少し踏み込んで、これからは実際の業務の中で勉強するようなコミュニケーションをしていくことが必要なのだと思います」

 続けて記者から質問。

「親会社と子会社、発注先と受注先でのコミュニケーション不足は、ダイハツ工業の不正の際にも原因のひとつとして挙げられていました。今後はやはり、こうしたグループ内でのコミュニケーションも見直してゆく、ということですか」

 これに対して佐藤社長の回答は以下。

「そうですね……これは大変難しいところもありまして、今回のように、グループ内でそれぞれの得意分野を委託し合ってやっていこうというときに、そうした得意分野に対してしてどこまで両者ですり合わせをしながら、その業務を推測するのか、そこはやはり委託先の責任分担というのもございます。

 ただ一方で、2015 年ぐらいからディーゼルエンジンの開発につきましては、織機さんに完全にお任せしてきた、という背景があります。そこはやはり、任せっぱなしではなく、トヨタの中である程度、相手のやっていることが見える人材や能力が必要で、そういう者同士が、もっと草の根のコミュニケーションを増やしていく努力が必要なのだと思います」

 報告書には、不正の原因のひとつに「受託体質」と書かれていた。トヨタの言うことを聞いていればいい、トヨタが示す手順どおりにやっていればいい、そうした自主性、自立性の放棄が、今回の不正の原因にある、と。

今回発覚した試験不正の該当エンジンと認証年度。2022年以降のエンジンはセーフのようだ
今回発覚した試験不正の該当エンジンと認証年度。2022年以降のエンジンはセーフのようだ

 日野、ダイハツに続いて、豊田自動織機と認証不正の発覚が続いた、これはさすがにトヨタグループとしての原因があるのではないか、トヨタからのプレッシャーが問題の根っこにあるのではないか。そうした質問が飛ぶと、佐藤社長は記者の目を正面から見ながら、自身にも言い聞かせるようして、以下のように語った。

「トヨタがもともと持っている技術を関係会社へ移転、共有していくにあたって、スムーズに移転していくためには、コミュニケーションであったり、業務のやり取りがあります。”それ”が過剰に行われすぎると、関係会社は自立的にその領域に対して考え、行動することを阻害する要因になってきます。それを防いで、自立的に考え続けてもらうためには、やはり丁寧なコミュニケーションをしていく必要があるわけです。

 これはトヨタだけの話ではなく、それぞれの関係会社がしっかりと専門性を持って、総合的に、自動車産業550万人のために、みんなで未来を作っていくという関係を作っていかなければならない、というふうに思っております。

 そのうえで、たとえばトヨタ生産方式(TPS)などもそうしたトヨタが持つ方法論のひとつであり、関係各社で共有してゆくべき大切なもののひとつと考えておりますが、それとは別に、ものづくりのもっと根っこのところにある、認証データ、実験データに対する取り扱い方ですとか、データに対する誠意、リスペクトだとか、そういったエンジニアとして大切なものが、今回は足りていなかったのだとも思います。」

 質疑応答の中で、繰り返しお客さまへの謝罪、エンジニアとしての見解を述べた佐藤社長。今回は、豊田自動織機から提出されたデータを自身で確認したそう。そのうえで「この(バラつきを抑えた)表を見て、調整や改竄を見抜くのは無理だ…」と感じたそう。これをトヨタ側で防ぐためには、同じ試験をトヨタ側でも実施するしかない。そんなことは不可能で、そうなるとやはり、上述のとおり「現場同士のコミュニケーション」を増やして、不正に至る前に不備やプレッシャーを取り除く手当が必要になる。

 日野、ダイハツ、豊田自動織機と、トヨタグループの不正発覚が続いている。共通しているのは「認証試験制度」、もっというと、認証試験に対する考え方の「甘さ」だ。トヨタ本体で起きていないことが、グループ会社で起きている。

「もっと厳しく監督してくれ」、と言いたいのをグッとこらえて、(佐藤社長の言うように)もっと丁寧にコミュニケーションをとってください。

 国内工場出荷(生産)は29日から止まっており、再開のメドは立っていない。輸出ぶんに関しては仕向け地ごとに当局と話し合って決める。国内ぶんは、国交省と相談して不正内容を確認してもらい、再開時期について話し合ってゆくという。

 頼むよ……ハイエースを待っている職人さんたちを困らせないでください……。産業のあらゆる部門が滞る可能性があるんですよ……。

【今回不正が発覚して出荷が停止される車種(国内)】
(1)ランドクルーザープラド
(2)ハイエース
(3)グランエース
(4)ダイナ
(5)ハイラックス
(6)ランドクルーザー300

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