これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、ミニバンらしからぬスタイリッシュさでユーザーを魅了したホンダジェイドを取り上げる。
文/フォッケウルフ、写真/ホンダ
■「セダンでもミニバンでもない」と謳った新種の乗用車
ジェイドは既成概念に縛られない自由な発想と、人を中心としたクルマ作りの思想をもとに作り込まれた、まさに当時のホンダにとっては渾身の新型車だった。3列シートを備えていたのでミニバンというジャンルに属していたが、ホンダはこのジェイドを「セダンでもミニバンでもない、新しい乗用車」と謳っている。
ホンダ・ミニバンの人気車種だったオデッセイがエリシオンと統合してスライドドアを備えたハイルーフタイプへと変貌したため、ホンダのミニバンラインナップにロールーフタイプがストリームしか選べなくなった。ハイルーフタイプがミニバンクラスにおいて販売の中心となり、背が低くてスライドドアを備えていないロールーフタイプは、後に淘汰されてしまうが、ジェイドが登場した2015年当時は、まだ背の低い多人数乗りを求めるニーズは存在していた。
そんなユーザーの選択肢として人気だったストリームがやや古くなり、なおかつオデッセイがスライドドアを備えたハイループタイプとなったという経緯もあり、ホンダとしてはその受け皿が必要だったことは想像に難くない。
「見て・走って、乗って・使って、さまざまな側面で驚きをもたらす」をコンセプトに掲げたジェイドは、「新しい乗用車」とするためにかなりこだわった作りがなされている。たとえば、リアサスペンションをダブルウィッシュボーン式とし、乗用車ライクの上質な乗り心地と卓越した操縦安定性を実現。
また、ホンダのM・M思想を突き詰めることで実現した超高密度低床プラットフォームによって、さまざまなニーズにフレキシブルに対応できる能力も身につけていた。こうしたこだわりは、すべてにおいて既存のミニバンとの違いをもたらすものであり、そこにホンダの狙いがあったわけだ。
1530mmに設定された全高は、ミニバンクラスで最も低く、クルマに疎い人ならこれをミニバンと認識できないかもしれない。もはや背の低いミニバンというより、ちょっと背の高くて実は3列シートがあるワゴンという表現が適切で、実際にもそこに魅力を感じたユーザーは少なくない。
そんな特徴に注目してジェイドを選んだユーザーが期待したのは、重心の低さがもたらす操縦安定性の高さだが、その点においてジェイドは、期待以上のパフォーマンスを提供した。
【画像ギャラリー】乗用車ライクな上質な乗り心地と卓越した操縦安定性を両立したジェイドの写真をもっと見る!(10枚)画像ギャラリー■重心の低さと完成度の高い基本骨格が卓越した走りをもたらす
セダンに匹敵する操縦時の安定感と乗り心地を実現するために、ボディ変形をコンピュータで綿密に解析。さらに試乗によるフィーリング評価とすり合わせ、最も効果的かつ効率的なボディ剛性の在り方を追求したという。その結果、各部板厚の最適化や、多角形断面形状部材の採用、結合強度の向上などにより、高剛性ボディを効率よく形成できた。
さらにリアに大きな開口部を持つワゴンタイプボディの特徴を考慮し、大断面部材をメインとした強固な環状骨格を2重で構築。リアダンパー取り付け点の強度を確保することで安定性と応答性を高め、的確なリアの追従性を実現している。
ボディの強化は足まわりの能力が存分に引き出すことに好影響をもたらしている。フロントのストラット式サスペンションは、カーブでの車体の傾きを抑えるジオメトリーとしたうえで高剛性のスタビライザーを採用。
また、豊かなストローク感を創出するためにスプリングの巻き方やバネレートを吟味し、さらにピストンスピードに対して減衰力をリニアに発生させるHPV(Hondaプログレッシブバルブ)ダンパーの採用やオイル特性の最適化も図られている。こうした技術に加え、細部のフリクションコントロールも実施することで応答性の高さとしなやかな乗り心地を両立していた。
リアはダブルウイッシュボーン式としながら、トレーリングアームを上級車並に大断面化。横方向の剛性を高めることで路面への接地感を向上させながら低床化にも貢献した。
高次元でバランスさせた基本骨格、一体感のある走行フィールをもたらすシャシーといった技術により、安定感のある車両姿勢と軽快な操舵レスポンスを実現し、あらゆる場面でシャープな運転感覚が味わえる。そのうえひとクラス上の上質感を味わえたのもジェイドならではの魅力であり、既存のミニバンとは明らかに違う特徴だった。
パワーユニットは、1.5L直噴DOHC i-VTECエンジンと高出力モーターを内蔵した7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)、高性能リチウムイオンバッテリーを内蔵したIPU(Intelligent Power Unit)で構成されるスポーツハイブリッドi-DCDを搭載。
スポーツハイブリッドi-DCDは7速のDCTにモーターを融合させたシステムで、DCTクラッチがエンジンとモーターの接続・切断を兼ねることで、モーターのみのEV走行を軽量コンパクトなシステムで実現している。
走行状況に応じて、3つのモードの中からもっとも効率のいいモードを自動的に選択する機構も備わっており、発進時や市街地での低速時にはモーターのみのEVドライブモードで走り、加速時にはモーターとエンジンの駆動力を併用するハイブリッドドライブモードで力強い加速性能を発揮した。
さらに高速クルージングなどエンジン効率がいい状況ではエンジンドライブモードで走行できる。こうした制御を緻密に行うことで、優れた燃費性能を獲得できるだけでなく、リズミカルで伸びのある加速フィールが走りの楽しさをもたらした。
ホンダ製ハイブリッドの特徴として、エンジンが主役であることが挙げられる。1.5Lエンジンは高圧のマルチホールインジェクションによって微粒化した燃料を直接噴射するとともに、シリンダー内に強いタンブル流(縦うず)を生成できる燃焼効率の高い筒内直接噴射技術を採用。
さらにVTEC(可変バルブタイミング・リフト機構)とVTC(連続可変バルブタイミング・コントロール機構)というふたつの可変バルブ機構の効果も相まって、低速から高速まで全域にわたってトルクフルな走りが堪能できた。
当時のハイブリッドといえば省燃費のエコカーで、走りではやや物足りなさを感じさせたものだが、1.5L i-VTECエンジンとスポーツハイブリッドi-DCDを組み合わせ、ジェイドに最適なチューニングが施されたパワーユニットの恩恵によって、システム最高出力は152psを発生し、ミニバンの概念を覆すスポーティな走りをあらゆる状況で味わえた。もちろん、燃費に関しても25.0km/L(JC08モード)で、十分に満足できる能力も有していた。
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コメント
コメントの使い方時代に迎合しないコンセプトがHONDAらしいし、HONDA好きなら刺さる車。今回の特集もいい所を突いていますね。ネットでは酷評も散見されたけれども、きっと自分で乗って確かめなかったのでしょう。私はいまだに使っていて満足だし、買ってよかったと思っています。「知る人ぞ知る車」で伝説になりそうなのがウレシイ。
ささる人にはどストライク、まさにそんな車。
最初から2列5人乗り仕様を出していたら、もう少し売れたと思います…
ストリームの後継を狙うのなら最初からRSTのような5人乗りグレードを設定すれば良かったのに
この時期のホンダのHvは、マイルドハイブリットじゃなかったかな?出足のみエンジンアシストする。