これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、トヨタの市販車生産60周年の記念モデルにして、生産台数も少なく超貴重な「トヨタ クラシック」を取り上げる。
文/フォッケウルフ、写真/トヨタ
稀代の名車であり初の純国産車「AA型」を忠実に再現
1936年、トヨタは「トヨダAA型」と呼ばれる乗用車を発売して以来、世界の自動車界におけるトップランナーとして走り続けている。今回クローズアップする「トヨタ クラシック」は、トヨタの創業とトヨタ初の純国産車であるトヨダAA型の市販から60周年を迎えたことを記念して発売された特別な1台だ。
1996年6月に発売されたクラシックは、TECS(TOYOTA EXCELLENT CONVERSION SERIES=トヨタ メーカー完成・特装車シリーズ)の一環として製作されたが、その際にモチーフになったのがトヨダAA型だった。
トヨダAA型は、1930年代に豊田喜一郎が率いる豊田自動織機製作所 自動車部が開発・製作した車両で、トヨタが初めて作り上げた乗用車として、日本の自動車史にその名を刻んでいる。
トヨダAA型は、当時世界の自動車産業を牽引していたアメリカの近代的な設計思想を模範にしたと言われている。なかでもクライスラー「デ ソート エアフロー」から受けた影響は大きく、トヨダAA型の特徴である流線型のボディや合理的な前・後輪荷重、優れた後席の乗り心地のほか、広い室内空間を確保といった要件は、デ ソート エアフローからインスパイアされたものだ。
【画像ギャラリー】その名の通りクラシックカーを90年代に復活させた、「トヨタ クラシック」の写真をもっと見る!(8枚)画像ギャラリークロカンSUVをベースにしながら手作業で作り上げる
トヨタクラシックの製作に際してベースとなったのはハイラックス(5代目)だ。60年前とは違ってほとんどの乗用車がモノコックとなっていた1996年当時に、フレーム構造を採用していた車両は一部のクロカンSUVだったこと、さらにボディ寸法が比較的近かったことがハイラックスをベース車にした理由と言われている。
車両の企画開発と製作は、トヨタや日野自動車の特装車事業を担っていた「トヨタテクノクラフト社」の手に委ねられた。また、製作にあたっては、「クラシックカーテイストの外観、内装」、「快適性・操作性の追求」について注力された。
外観はAA型で実現した優美な流線型のフォルムを継承している。格子状のフロントグリルはメッキがあしらわれ、そこにトヨタマークのマスコットが配置された。
丸いヘッドライト、前後のタイヤハウスの膨らみ、気品を漂わすホワイトリボンタイヤとメッシュホイールといった外観を構成するアイテムによって、クラシックカーテイストが見事に表現されていた。
ボディカラーがブラックとレッドのツートーンカラーとしていたのが唯一現代風の仕上げとなっている。全長4885mm、全幅1735mm、全高1650mmのボディサイズは、トヨダAA型と比較して全長が100mm長く、全幅は5mmだけワイド化され、全高は86mm低くなっていた。
車内もクラシックカーのテイストを存分に味わえる作りとした。インパネまわりの造形はベース車のものだが、目に鮮やかな本革シートや木目調パネルをふんだんにあしらい、操作系にもウッドステアリングホイールや本革巻きシフトノブを用いて、1930年代当時の雰囲気を再現していた。
ボディサイズを生かして車内は、室内長2100mm、室内幅1400mm、室内高1205mmという寸法を実現し、前後席ともに乗員はゆったりと過ごすことができた。
おそらくAA型にはなかったエアコン、パワーウインドウ、電気式ドアロック、AM電子チューナー付ラジオといった快適装備が備わり、現代のクルマに慣れたオーナーでも心地よく使えるよう配慮されている。
【画像ギャラリー】その名の通りクラシックカーを90年代に復活させた、「トヨタ クラシック」の写真をもっと見る!(8枚)画像ギャラリー
コメント
コメントの使い方40年以上豊田市で生活したけど、クラシックとレクサスLFAにはお目にかかることが無かった。特装車と考えれば、1点もののフードワゴンよりはレア度低いんだけど、営業であちこち行くなんてことも無いから、目撃する機会はコレクターのガレージに出入りするくらいだろうね。