ダイハツが描く大衆車像を体現した偉大なモデル
エンジンはダイハツが完全自社開発した直列4気筒OHC 16バルブを搭載。排気量は1589ccで、電子制御キャブレターを搭載したHD-F型(97ps/13.3kgm)と、電子制御インジェクション(EFI)によるHD-E型(120ps/14.8kgm)の2種類が用意された。
クランクシャフトやカムシャフトの中空化、アルミ製シリンダーブロックなど、軽量化技術がふんだんに投入されており、当時の国産コンパクトカーとしては最先端の技術が投入されていた。
コンパクトなボディは車両重量がわずか970kg(16Ri・MT車)。軽量ボディを活かして、パワーウェイトレシオは優秀で、街なかから高速域まで軽快な運転感覚を実現していた。
足まわりは、上級グレードに周波数感応式ショックアブソーバーを備える4輪独立懸架サスペンションが与えられ、上品なルックスに見合う乗り心地と操縦安定性が味わえた。また、駆動方式はFFとビスカスカップリング式のフルタイム4WDを設定し、天候や路面状況を問わず安心感の高い走りを提供した。
あらゆる部分を完全自社開発したことで、ライバルとは明らかに異なる特徴を有していたが、アプローズの独自性や実用性に対して市場の反応はやや冷淡だった。
ハッチバックの小型セダンというボディスタイルは、当時の日本市場では中途半端と受け取られ、なおかつ質実剛健を貫いたがゆえに、華やかなイメージを強調したライバルたちに埋もれてしまったのが要因に挙げられる。
セルシオやユーノス ロードスター、R32のスカイラインGT-Rといった、日本車史上に足跡を残すモデルたちと同時期に登場したわりに、30年以上を経た現代では名車として記憶されず、珍車として取り上げられてしまう。
たしかに異端だが、そこには合理性と多用途性に満ちたパッケージがあった。しかも、カローラやサニーといった売れ筋セダンと異なるベクトルで作られたアプローズには、ダイハツが独自の大衆車像を追求した確かな足跡が垣間見られる。先を行きすぎた感は否めないが、今こそ再評価し、“喝采”を贈るべき1台だと言っていい。

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