天職と思える仕事との出会い! ベテラン平ボディドライバー由美さんの素顔の自叙伝【後編】

プロドライバーとしての自覚 天職と巡り合えた幸せを噛みしめて

 しばらくすると私も港内の仕事に慣れ、ついに先輩達と同じ精密機械を運ぶことを許された。運ぶのは1台数百万から数千万円はする大型の精密機械。

 さすがに社長も私一人じゃ不安らしく、会社で一番の精密機械運搬のプロフェッショナルといわれていたベテランドライバーと、2台セットで積み込みに行くことになった。

 高さは3メートル、幅は荷台いっぱいの大きな機械で、間近で見るのははじめてだ。

 この機械を天井クレーンで吊り上げ、いざトラックへ積み込みを開始しようとしたとき、今まで穏やかだった初老のベテランドライバーの眼差しが真剣なものへと変わり、私に一喝。

 「ほら積むぞ! 危ないから下がってろ! こっちはいちいち一から教えてる余裕なんてない! いいか、仕事は教えるものじゃないんだ! 見て覚えろ! 仕事は盗むものなんだ! 次は一人で積みにくるかもしれないんだから一度で覚えろ!」。

「は、はい」。私はそれ以上の言葉を発することができなかった。

 今まではどんな会社でも、はじめての荷物や場所について先輩ドライバーが説明したり教えてくれたりしたものだった。私も新人がくればそうしてきた。

 こんなことを言われたのは初めてだった。突き放されたようで、なんだかちょっと泣きそうになってしまった。

 しかし私も必死だ。この機械が積めなければ、この会社で大型ドライバーとして使いものにならない。「私にはできません」なんて泣きつけば、また「やっぱり女はダメだな」とレッテルを貼られるだけ。

 頑固なジイサマは、慣れた手つきで次々と大きな機械の荷締めを丁寧に取り、機械の尖った部分や角に毛布をあて、シートを掛ける。絶対に水濡れ厳禁なデリケートな機械、ブルーシートと本シートの2枚重ねだ。

 シートのゴムの掛け方にも人それぞれこだわりがある。ジイサマの魔法のような一連の作業を、私はとにかくガン見して覚えるしかなかった。

 ジイサマは頑固で変わり者と周りのドライバーからは思われていた。時々、他のドライバーと仕事のことで口論になったりもしていたようだ。

 だけど私はなぜかこのジイサマを嫌いではなかった。その頑固さの裏側には、長年積み重ねた経験と知識、仕事に対するプライド、こだわりがあると思うのだ。

 その日から頑固なジイサマは私の仕事の師匠となった。

 平ボディドライバーはある意味「職人」だと思う。さまざまな荷物に対する最適な荷締め方法と、シートの掛け方を熟知している。

 平ボディに乗るようになって、私も今までは縁のなかった材木やら鋼材やら機械やら、それに重量物や幅出し、長尺物などを積む機会が増えた。

 はじめはどんなものが出てきても内心オロオロしていたが、私も成長したものだ。

 ジイサマに一喝されて以来、他のドライバーがやっている「これはいいな」と思う荷締めや積み方を見て、盗んで応用してみたり、自分なりに研究してみたり。今ではどんな荷物が出てきても驚くことはなくなった。

※     ※     ※

 4年前、念願のマイホームを住み慣れた埼玉県内に購入した。今は「キューポラのある街」で有名になった街の、鋳物や建築資材などを運ぶ会社で4トンの平ボディを運転している。

 ときどき積み込み先で、「お姉さん、運転手歴長いの? ずいぶん手際がいいね」とか「こんな背の高い荷物なのにずいぶんきれいにシートをかけるねぇ」とか誉められることがある。

 そんな時、私はいつもあのジイサマを思い出す。あの言葉がなければ私の向上心は生まれなかったかもしれない。

 思い返すと、さまざまな積み荷を運んだ。その仕事ひとつひとつに無駄な物はない。今でも毎日が修行だ。

 トラックドライバーは自分にとって「天職」だと思っている。「天職」に出会えないまま、ただ日々の生活のために好きでもない仕事をしている人も少なくないと思う。

 そんな中、自分に最適な仕事を見つけられた私は幸運だと感じている。もちろん仕事が辛く感じることも多々ある。いや、辛いと思うことのほうが正直多いかもしれない。だけど私はこの仕事が大好きだ。当分やめられそうにもない……。

【編集部より】
 この「素顔の自叙伝」を書いてもらってから10年が経ちました。由美さんは今も元気いっぱい。10年前からの夢をかなえ、現在は運送会社で配車係を務めています。

 ただ、この10年間にもさまざまな苦難もあり試練を乗り越えてきました。その軌跡は、いつか由美さんの「素顔の自叙伝」第二章で明らかにしてほしいと思っています。

【画像ギャラリー】いったん専業主婦となるも、娘に背中を押され平ボディ運転手へ転身した由美さん (4枚)画像ギャラリー

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