天職と思える仕事との出会い! ベテラン平ボディドライバー由美さんの素顔の自叙伝【後編】

親の背中を見て子は育つ いよいよ大型の平ボディに搭乗

 「ママ、ほんとはトラック乗りたいんでしょ? 私はジジとババも近くにいるし、お友達たくさんできたし、大丈夫だよ。私はトラック乗ってるママのほうが、かっこよくて楽しそうで好きだよ!」

 こうして、専業主婦期間は半年で終了した。

 横浜での仕事探しは思うようにいかなかった。出産後に再就職した時と同様、運送会社に片っ端から電話をしたが、返ってくる答えはあの時と同じ。どうしても小さな子供がいることがネックになる。

 ただ今回は娘も小学生だし、幸いなことに夫の両親がすぐ近くに住んでいる。たとえ私と旦那の帰りが遅くなっても、夕飯はジジとババの家で食べることができる。心強かった。

 そんな中で2社面接をしてくれ、1社が面接の場で即採用してくれたのだ。横浜の本牧ふ頭ベースで、輸出入の貨物全般の輸送をしている会社だった。

 クルマは2トンから大型まで20台弱保有している。私は4トンウイング車のドライバー希望で応募したのだが、私が以前大型ウイング車に乗っていたことがわかると、「じゃあ大型に乗ってよ」と言われ唖然とする私。ちょうど大型トラックも一台空いているとのこと。

 私はこのとき、どうせ大型はムリだから、2トンでも4トンでもウイング車でも箱車でも幌車でも冷凍車でも、トラックに乗れるならもうなんでもいい! と半ばヤケクソになっていたので、まさかまた大型トラックに乗れるなんて願ってもないチャンスで夢のような話だった。

 大型の運転はかなりブランクがあるので、内心は少し不安だったが、面接してくれた社長の前で自信なさげな表情はできなかった。こんなチャンスは滅多にあることではない。

 「はい! 大丈夫です。乗れます」当然、そう答える私。

 「乗ってもらうのはね、車庫の端っこに置いてあるあのクルマだよ」窓の外のトラックを指さす社長。

 「あ、あれですか……?」社長の指さす先には一台の平ボディ車が……。確かにこの会社はウイング車と平ボディ車の両方を保有しているが、まさかまったく考えてもいなかった平ボディだなんて……。

 自分の中の選択肢には平ボディの存在さえなかったのだ。ヤバい、平ボディなんて乗ったことがないし、どうしよう、シート掛けとか大変だって聞いてるし……。

 えぇい! こうなったらヤケクソついでだ、乗ってしまえ! 大型なんてどれも一緒! みんなに乗れて私に乗れないことはない!! 私は変な自信と勢いで大型平ボディ車に乗ることになってしまったのだ。

 勤務初日、私はてっきり他のベテランドライバーと同乗する、研修期間が数日あると思っていた。その間にシートやら荷締めやら平ボディ車のノウハウを教えてもらおうと思っていた。

 しかし、その甘い考えはすぐに打ち砕かれた。忙しいからと、いきなり荷物の引き取りと納品に必要な書類の束を渡され、初日から1人であっちこっちと配達に行かされたのだった。

 はじめは、本牧ふ頭で積んですぐ隣の大黒ふ頭でおろす、というような簡単な作業だったが、大型に乗るのは久しぶりだし、平ボディも初めてだし、ましてや港なんて右も左もわからないし、とても不安だった。

 社長から手渡された大黒、山下、本牧、大井ふ頭の各港内マップのコピーだけが頼りだった。

 数年ぶりに座った大型の運転席、大きなハンドル、ボディの長さに戸惑いながらもエンジンをかけスタートする。

 しかし、不思議なものだ。大型の運転感覚を身体が、また脳が覚えているのだ。荷物を積んで降ろす間に、すっかり勘を取り戻すことができた。久しぶりの大型はやっぱりイイ! 満足感でいっぱいだった。

 問題はシートと荷締めだった。何もかも手探りの状態で、はじめのうちは見よう見まねで、シートなんてゴムをフックにかければいいだけじゃないの? と適当にシートを掛けてみた。いざ走ってみると……、シート内部に風が入り込み、膨らんだりバサバサしたりする。

 そんな自分のトラックがすごく恥ずかしく、また惨めにすら思えてくる。まるでシートの掛け方がその人の技量を示しているかのように感じる。

 道行く他の平ボディを見ると、みんなシートがきれいにバッチリかかっている。「美しい……、なんてカッコいいんだろう」。

 いま思えば、その時が平ボディの奥深さと魅力に取り憑かれた瞬間だったのかもしれない。

今ではシート掛けもバッチリこなす由美さんたが、初めて乗る平ボディは戸惑うことだらけ
今ではシート掛けもバッチリこなす由美さんたが、初めて乗る平ボディは戸惑うことだらけ

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