2024年10月11日、トヨタ自動車が展開するモータースポーツ部門、TOYOTA GAZOO Racingが、現役F1チームと業務提携することが明らかになった。
トヨタのF1参戦は2009年シーズンが最後。以降は、世界ラリー選手権(WRC)や、世界耐久選手権(WEC)、ニュル24時間耐久レースなどには参戦しているものの、「世界一速いクルマ」へのチャレンジはしていない。今回のF1チームとの業務提携は、F1への再チャレンジということではないらしいが、トヨタは新たな夢を描いているようだ。
文:吉川賢一/写真:TOYOTA
【画像ギャラリー】HaasのF1マシンにTGRのマークが!! 歴史的会見の様子を写真で確認(10枚)画像ギャラリー車両開発の分野で協力関係を結ぶことを合意
今回、TOYOTA GAZOO Racing(以下TGR)との業務提携が発表されたのは、2016年からF1に参戦しているMoneyGram Haas F1 Team(以下Haas)だ。このたび、TGRと人材育成およびHaasの車両開発の分野で協力関係を結ぶことを合意、基本合意書を締結したという。
Haasは現F1チームの中で、もっとも若く、規模も小さなチーム。コンストラクターズポイントでも下位に沈んでおり、順位を上げる方法を模索していたそうだ。そんななかだった2024年の2月ごろ、今回の業務提携の話が立ち上がり、6月ごろにはTGRサイド(豊田会長及びTGR幹部)と協議。お互いに「共鳴」する点が多かったそうで、すぐさま「GO」となったそうだ(会見に出席したHaas F1 Teamの小松礼雄代表のコメント)。
Haasとしては、F1の最新ノウハウはあっても、バジェットキャップ(シーズン中の支出上限)が影響し、シミュレーションやものづくりといったエンジニアリングに関わる人と設備などのリソースへの投資が全然足りていない。トヨタとしては、もっといいクルマづくりを実現するために、モータースポーツとより深く関わりたい。
Haasとしてはその相手がWECやNASCARなどでレース経験豊富なTGRならば、願ってもいない相手なのだろう。TGRをスポンサーに迎え入れることで、キャッシュフローの改善も見込める。トヨタとしても、世界最高峰のレースであるF1にTGRの育成ドライバーやエンジニア、メカニックをHaasに参加させることで、クルマづくりにおいてもっとも重要な「人」を育てることができ、そこで培った技術及び知見をストックすることができれば、得難い財産となる。まさに双方の利害関係が合致した今回の業務提携なのだ。
日本人が再びF1に関わることができるのはうれしいこと!!
冒頭でも触れたように、トヨタは2009年シーズンを最後にF1から撤退しているが、その決定を下したのは当時の社長、豊田章男氏(現トヨタ自動車会長)だ。「利益を追求して会社を大きくするためには、いまでも正しい判断だった」とする豊田会長だが、一方で、いち個人としては日本人のドライバーやレースエンジニア、モータースポーツに関係する皆をがっかりさせてしまったことを、心残りに思っていたそうだ。
今回のHaasとの業務提携によっても、日本人ドライバーがF1ドライバーになれる確証はなく、日本のトヨタ社員が、(TGRに移籍した上で)TGR内で認められ、F1エンジニアに選抜される道は限りなく険しい。欧州のTGRにはレースに慣れ親しんだ優秀な海外エンジニアがたくさんいるからだ。それでも、トヨタが最高峰のレースであるF1に関わる機会が再び設けられたことは、クルマ好き日本人としてはとても喜ばしいこと。実に豊田会長らしく、心の底から「ありがとう」といいたい。
モータースポーツを通して得られることは、ドライバーが勝利することで得られる「利益」や「名誉」だけではない。関わったエンジニアが得る経験や知識はとてつもなく大きいものがあり、レース活動を行う上で大いに活かされる。また、サーキット関係者やファクトリー関係者、マーケター、そしてモータースポーツを支えるファンによってモータースポーツが盛り上がれば、それに憧れる人が増え、よいサイクルが生まれる。自動車産業の大きな底力となるのだ。
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