いよいよ開幕した富士24時間レース。注目のST-Qクラスだが、今回はトヨタが「TGRR」として参戦する。水素エンジンについても大きな進化を遂げているというが、今年はどのように戦っていくのだろうか? 新たなパワートレインとなる水素エンジン研究の新章がいよいよ始まった。
文/写真:ベストカーWeb編集部
【画像ギャラリー】やっぱりサウンドがないとエンジンはつまらん!! 水素エンジンの進化をとくとご覧あれ(10枚)画像ギャラリー「GRが勝ちを目指す組織になってしまった」
スーパー耐久ですっかりお馴染みになったルーキーレーシングの水素エンジンカローラ。今年も富士24時間に帰ってきたぞ。しかも今回から「トヨタGAZOOルーキーレーシング」としての参戦となる。
そもそもGRは「もっといいクルマ作り」をするための小さなチームだったが、どこからか「レースで勝つ」ことが目的の組織になってしまったとトヨタ関係者は振り返る。そこで原点に立ち帰り豊田章男会長が率いる「ルーキーレーシング」が生まれてきた。
今回はそのGRとルーキーレーシングのコラボがひとつのカタチとなって生まれた。特に注目の32号車「TGRR GRカローラH2コンセプト」。こちらは引き続きの液体水素エンジン車だが「完走」という明確な目標とともに、三つの進化を携えてレースに臨む姿勢を見せた。
第一に注目すべきは、液体水素ポンプの耐久性向上だ。これまでも自社ベンチ試験や走行試験では24時間の稼働実績があるが、「実際のレースという極限環境で性能を証明することに意味がある」と語る。さらに、大容量化した燃料タンクにより、高速巡航可能距離が飛躍的に伸びた。
今後は開発が進む超電導燃料ポンプをタンク内に設置する開発も進んでおり、将来的には水素搭載量は現在より5kg多い20kgに、そして富士スピードウェイでの周回数は10周多い40周が視野に入ってくる。こうなるとガソリン車との競り合いにも十分対抗できるポテンシャルが手に入れる。
次に、燃焼モードの切り替え技術にも大きな進化があった。従来のように常に高出力を狙うのではなく、状況に応じて理想空燃比(ストイキ)と希薄燃焼(リーン)を切り替える制御技術を導入した。
すべてをメカではなくソフトウェアで制御し、ドライバーのアクセル操作に応じて空気量や燃料の噴射量を最適化する。水素はガソリンに比べて燃焼しやすいため、希薄な混合気でもしっかり燃焼できるのが特徴であり、これが燃費向上にもつながっている。
レースシーンでは基本的には加速をしているシーンが多いが、ブレーキング時やFCYなどの低負荷時にリーン燃焼のメリットが出てくる。これまでの水素エンジンはガソリンエンジン並の出力を目指していたが、今回から投入される燃焼制御は燃費も重視して市販車へのフィードバックを想定した段階にやってきた。
ハーネスを銅からアルミへの切り替えで軽量化へ
また、液体水素の充填システムにも抜本的な改良が施された。新たに開発された充填バルブでは、これまで2基使用していたアクチュエーターを1基に統合。構造がシンプルになることで軽量化を図りつつ、充填速度も向上している。この変更は見た目には地味ながら、耐久レースにおける実用面での効果は非常に大きい。
三つ目の進化は車両の軽量化だ。ワイヤーハーネスの一部をアルミ化することで重量を削減。これまで使われた銅素材は腐食には強いものの重量が嵩む。しかし軽量のアルミ導線は水や腐食への耐性が課題だったが、古河電工の先進的な溶接技術を採用することでこの問題をクリアしたという。
これらの技術はいずれも、将来の市販車に展開可能な可能性を秘めている。実験室や試験コースではなく、24時間耐久という実戦の場でどこまで通用するのか。現場に立ち会った編集部としては、その答えを見届けたいと思う。












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