近頃、盛り上がりを見せているスーパーフォーミュラ。F1のリザーブドライバーでもある岩佐歩夢が初優勝したことで、2025年のシリーズチャンピオン争いはますます熱を帯びてきている。だが、そんな白熱っぷりを魅せるレースとは裏腹に、国内トップフォーミュラ、ひいてはモータースポーツの将来にもかかわるプロジェクトが進んでいる。
文:段純恵/画像:SPJ-JS、ホンダ、HRC、童夢、トヨタ、ベストカーWeb編集部
【画像ギャラリー】国内モータースポーツの未来のために! 待ち望まれる国産トップフォーミュラーカーの誕生! クルマ大国ニッポンの底力が見たい……!!! (14枚)画像ギャラリー岩佐初優勝でいよいよ読めなくなってきたSF王者!
全日本スーパーフォーミュラ選手権の今季タイトル争いが面白くなってきた。シーズンの4分の3を終えてチャンピオン候補は8点差内にいる3選手、昨季王者で富士戦が得意な坪井翔(トムス)、雨の菅生で念願のSF初勝利を挙げた岩佐歩夢(無限)、そして今季最多の3勝をマークしている太田格之進(ダンディライアン)に実質絞られたが、3人の中の誰が王座を引き寄せるかとなると予想は難しい。
というのも富士と鈴鹿で行われる残り2大会4戦のうち2戦がピットウィンドウ制限のない、いわゆる波乱を呼ぶ『タイヤ交換いつでも可』方式だからだ。アンダーカットを狙って早めにタイヤを交換するか、それとも引っ張れるだけ引っ張った後でタイヤを交換するか、どの作戦を採るにせよ、決勝中のセーフティカー導入などイレギュラーな事態が起きれば最初に立てた作戦が水泡に帰す可能性は高い。
また、「振動はあるがグリップする」「交換後はまったくグリップしなかった」等、タイヤのバラつきについて口にするドライバーがいることも、勝負の重要な場面を左右しかねないポイントとして気になる。
チャンピオンシップ争いの裏で……
そんなこんなでまだまだ予断を許さない今季SFだが、選手権争いとは離れたところで、この国内トップフォーミュラの将来に関わる二件のプロジェクトが粛々と進められている。
一つはかねてより懸案だったSF用カーボンニュートラル燃料の導入だが、こちらは決定事項として実走評価を経たのち来季から正式導入の運びとなる予定だ。もう一つは日本自動車レース工業会(JMIA)が進める「NEXT-FORMULA-PROJECT」で、こちらはSFの将来に関わる可能性を秘めた段階、というのが妥当だろう。
現在世界のフォーミュラ・レースで使われているシャシーの大半は伊ダラーラ社の独占状態にあるが、かつては日本にもレーシングカー・コンストラクターが複数存在した。入門クラスのFJ1600(1980-2009)ではウェストカーズや東京R&D、オスカー等のマシンが走り、トムスもかつては自社のマシンを全日本F3選手権(1979-2019)に参戦していた。
なんと言っても存在感が光っていたのは(株)童夢で、ローラやレイナードなど海外コンストラクター製マシンが主流だったSFの前身、国内F3000に挑戦し、1994年に国産シャシー初の国内最高峰制覇を果たしている。
クルマ大国ニッポンの忸怩たる思い
しかしいま、日本でコンストラクターとして国際規格のフォーミュラカーを製造しているのは童夢と東レ・カーボンマジックのみで、両社はフォーミュラ・リージョナルやホンダレーシングスクール用、またFIA-F4などの車両を製造しているが、それに必要な技術は最高峰カテゴリーで使われるシャシーの製造に求められる技術とはレベルが異なるのだ。
童夢のF3000制覇をリアルで見た後、F1やインディカー等の取材を通じて国内外のモータースポーツを相対的に見る機会を得た筆者からすると、日本国内で築かれた高い技術の数々が活かされることもなく、時の狭間に埋もれていくのは残念としか言い様がない。どの分野でも、一度途絶えた技術を取り戻すのは容易ではないのだ。
7月の日米関税交渉の場で担当大臣が「日本は自動車が国家だ」とトランプ大統領に向かって言い切ったそうで、それはその通りなのだが、ことモータースポーツに関していうと、日本は遅々として進まない、どころか後退とも言える歯噛みしたくなるような状況が30年以上続いている。
日本という国、そして日本の産業界がいま置かれている厳しい現実を考えると、モータースポーツのみならず自動車の根幹をなす技術と、それを生み出す技術者の国内での育成が急務であることに異議を唱える人はいないだろう。

















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