2025年7月に行われたWRC第8戦、ラリー・エストニア。オジエの欠場でトヨタのラリー1シートを得たオリバー・ソルベルグが見事にWRC初優勝を成し遂げた。父であるペター・ソルベルグ譲りのアグレッシブな走りが奇跡を起こした!!
※本稿は2025年8月のものです
文:国沢光宏/写真:Red Bull、TOYOTA GAZOO Racing
初出:『ベストカー』2025年9月10日号
伸び悩み続けた2世ドライバーが悲願の初優勝
オリバー・ソルベルグは今まで「速いけれど勝つのが難しいドライバー」だと思われてきた。
15歳でラトビアのジュニアラリー選手権から参戦を開始。欧州ラリーなどで好成績を残し20歳でヒョンデのワークスドライバーとなったのだけれど、リタイアも多数。安定して速く走ることができないという評価になってしまう。
結果、ヒョンデのワークスドライバーは1シーズン限り。その後ラリー2で修行を続けてきた。
説明するまでもなく、オリバーのパパであるペター・ソルベルグは、おそらく日本で一番人気のあるラリードライバーである。
そんなことからラリーデビューの時からオリバーを追いかけてきたファンも多いことだろう。そしてリタイアする度に心を痛めてきたんじゃなかろうか。
オリバーはSS1でコースアウトするなど救いようがないリタイアも多く、加えて感情的になりがち。デビュー後、素直に伸びたロバンペラとは対照的だった。
カンクネンのアドバイスで才能が開花!?
多くのラリー関係者は「メンタルのコントロールができていない。よい指導者に巡り会えば……」と感じていた。そんなオリバーはシュコダのラリー2に乗っていたのだけれど、今シーズンからトヨタのGRヤリスラリー2のハンドルを握っている。
後出しジャンケンだと思われるのを承知で書くと、私は2021年からトヨタのチームに入ればいいのに、と思っていた。するとどうよ。安定して速い。スウェーデン、ポルトガル、アクロポリスと3連勝!
当然ながらトヨタもオリバーに注目していたんだろう。突如ラリー1のシートを用意したのだった。オリバーからすれば夢のような話だったに違いない。
というのもオリバーはラリーを始めた時から2025年のトヨタWRCチームの代表代行であるカンクネンの大ファン。オリバーにとって父親より素直に話を聞ける存在なことは想像に難くない。カンクネンの言葉は副作用がまったくない精神安定剤のようなものか?
初めてハンドルを握ったGRヤリスラリー1の試走はわずか2日間。迎えた本番が衝撃的だった。木曜日夜に行われたスーパーSSこそ7位だったものの、金曜日から本格的なラリーが始まると、朝イチのSS2でベストタイム!
まぐれかと思った人も多かったようだけれど、SS3でタナックに続く2位。SS4では再びベストタイムを刻む。とはいえ金曜日の午前中はポイント上位のドライバーが「路面掃除」で不利。同じSSを使う午後は厳しいと思われた。
どっこい! 「路面掃除」が終わりイコールコンディションになった午後もベストタイムを叩き出し、金曜日が終わって1位! カンクネンを慕う若手のイキオイ止まらず。土曜日は2位を引き離し、余裕のリードを作った日曜日も抑えることなく好タイムを連発。
最終SSは途中までペースダウンしていたが、徐々にペースアップし3番手タイム! 関係者びっくり。親父もびっくり。本人もびっくり! 私も含めラリーファン大喜びでした。


















コメント
コメントの使い方素晴らしい環境が、彼を変えてくれました。本当にラリーファンが待ちに待った覚醒だったと思います。
トヨタは速さを求めるなら、貴元選手が要らない状況になりました。期待と温情、そして宣伝効果で残したい気持ちはTGRにも強くあると思いますが
貴元選手はこれまで以上に、結果として納得いくものを出さなければ、ラリー2の方でトヨタが一から育てた若手日本人選手たちと一緒に競ることになります
スバルをラリーに、復活させるための誘い水。トヨタは憎いねぇ-