積極的に運転して楽しむ人、改造して個性を追求する人、すぐに乗り換える人、クルマ好きは十人十色だ。なかには新車時の状態のまま動態保存する者もいる。せっかくのクルマをオブジェとして味わうとは…。ここではそんな不思議なクルマと人のエピソードを紹介したい。
文:古賀貴司(自動車王国) 写真:The SL Shop
【画像ギャラリー】ホントにオリジナルなの!? って疑うレベルの綺麗さ!! 43年間動態保存されてきた1982年式メルセデス・ベンツSL500がコレ(4枚)画像ギャラリー43年間、管理されたガレージで保管された500SL
イギリスのメルセデス・ベンツ専門店「The SL Shop」が極めて不思議な1982年式500SLを入手した。その500SLは走行距離わずか42マイル、しかも43年間一度も登録されることなく保管されていたという。
時の流れを感じさせるのは、最近ではディーラーから車両を未登録状態では購入できない、という点だろう。
この500SLは1982年11月30日、イングランド・スタッフォードシャー州ゴズノールの時計職人ハウ氏によって新車で購入された。
ハウ氏は500SLを温度・湿度管理されたガレージに保管し続け、43年間ほぼ手つかずの状態で維持してきた。
その理由は謎に包まれているが、ハウ氏の並外れた忍耐力と保存への情熱が、この奇跡を生み出したことは間違いない。
The SL Shopの創業者サム・ベイリー氏は、15年前にクラシックカーショーでハウ氏と出会い、当該未使用500SLの存在を知ることになった。長年にわたる交渉の末、今年ついにハウ氏は手放すことを決意し、500SLはThe SL Shopの手に渡った。
ボディ、内装、タイヤまで当時のまま
エンジンルームには工場出荷時の防錆剤やグリース、チョークマーク、ディーラーステッカーがそのまま残されている。
室内のレザーシートは新車の香りを保ち、木目パネルも光沢が維持され、新車時のままだ。
特に興味深いのは塗装の状態である。ベイリー氏によれば、メタリックブルーグリーンの塗装は一度も日光に当たっていないため、同じカラーコードの他の個体とは色味が異なって見えるという。
紫外線による経年変化が全くないため、工場出荷時の色をそのまま保っているのだ。装着されているミシュランXWXタイヤも44年前のもので、当時の仕様をそのまま履いている。
通常、タイヤは経年劣化で硬化してしまうが、適切な環境で保管されていたため、この個体は奇跡的な状態を維持しているそうだ。
とはいえ、走らせるなら交換すべきだろうが。
動態保存されながら、実はカスタマイズが1点だけ施されているのも面白い。ボンネットに装着されているメルセデス・ベンツのエンブレムは、ハウ氏自身が製作したスターリングシルバー製のものに交換されているのだ。時計職人ならではの技芸が光る。
今後もレストアの基準として大切に保管
2023年、The SL Shopは走行距離わずか122マイルの1989年式560SLをオークションに出品し、落札価格26万0,400ドルという記録を樹立している。
しかし、この500SLを販売する予定はないという。
The SL Shopは常設の温度・湿度管理されたディスプレイケースを作り、この車両はSLクラスをレストアする際の「基準」となる車両として保管するそうだ。
ハウ氏の並外れた献身と、The SL Shopの保存への情熱が、メルセデス・ベンツ黄金時代の技術を後世に伝える貴重な遺産を守り続けていく。いやはや、現実は小説より奇なりである。
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