在庫不足が続いている中古車市場では、昨今高値での取引が続いている。中古車を仕入れるための下取りや買取にも熱が入り、近年は愛車の売り時とも言える時期だ。出来るだけ高く売りたいと思うのは誰しも当然のこと。では実際の査定で、査定士は何をどう見ているのだろうか。自動車査定士資格を持っていた筆者が、自動車査定について解説していく。
文/佐々木 亘:写真/ベストカーWeb編集部・Adobe Stock(トップ画像=Tanakorn@Adobe Stock)
約15分で1台を見る! 違和感が見極めのポイント?
自動車査定士の仕事はスピードと正確性が命だ。どちらが欠けてもいけない。クルマを見せに来ているお客様を待たせずに、スムーズに査定して評価額を提示するのが、査定士の大切な仕事だ。
そこで、クルマの全項目をよく見まわしていたのではタイムオーバーになるから、査定士が時間をかけてみる場所は限られる。その場所がどこになるかは査定するクルマ次第なのだが、時間をかけてチェックするクルマや場所には「違和感」があるのだ。
例えばクルマ全体を見まわした時に、ドアやボンネットに生まれる隙間が均一ではないような気がする。ボディに映る風景がどこか歪んで見える。ボディパーツを繋ぐ接合部分やネジ部の色の濃さが少し違って見える。これらすべてが違和感だ。間違い探しのようなクルマの見方が、査定士の目である。
また泥だらけのまま査定を依頼してくる場合や、車内に荷物がパンパンに詰まっている状態で査定に来るクルマも違和感の塊。汚れたクルマは傷隠しのためか、荷物を多く乗せているのは事故歴を隠すためかなど、色々なことを勘ぐるため、こうした場合はお客様へ時間がかかる旨を伝えてクルマをじっくりと見る。長時間の査定に応じてくれない場合には、査定を断ることもあるのだ。
ユーザーができる一番の違和感消しは、査定しやすい状態のクルマで査定を受けること。査定前には簡単でいいので洗車や車内清掃をしておくと、査定士の心象は良いし変な疑いをかけられることも少なくなる。
修復歴=修理歴ではない!?
事故車とは、業界の基準で「修復歴」のあるクルマを指す。修復歴とは、日本自動車査定協会(JAAI)が定める特定の部位を交換したクルマに残る経歴だ。その部位はフレーム・クロスメンバー・インサイドパネル・ピラー・ダッシュパネル・ルーフパネル・フロア・トランクフロアの8つ。いずれも骨格部分にあたり、修復には修正や溶接を伴うものが多い。
よくあるのが事故を起こして部品を交換したら、それが事故車になるという誤解。バンパー交換やネジ止め部位の交換は「修理歴」であり「修復歴」ではない。
修理歴や修復歴について、黙っていれば分からないだろうとは思わない方が良い。査定前に事故や修理について聞かれたら、知っている限りで正直に答えよう。何百台とクルマを見てきている査定士には、前述の違和感から事故車の雰囲気を感じとることができる人が多い。
修理技術も年々向上をしているから事故車の見分けは年々難しくなっているが、それでもドアシールやネジを見たり触ったりすれば、修復歴はどことなく分かってくる。
質問に対して口籠ったり、はっきりしない答え方をしたりすることも違和感の一つ。査定の世界は、正直者が得をするようにできている。


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