メルセデス・ベンツの「ゼトロス」トラックといえば、東日本大震災の復興支援のためにダイムラーから寄贈されたことを覚えている方も多いと思うが、出自としては軍用車としての需要をメインにしたオフロードトラックとなる。
世界的に防衛産業の成長が続き、軍用トラックはメーカーにとっても重要な商品となっている。ウクライナなど寒冷地向けの大型契約が相次いでおり、ダイムラーはゼトロスを北極圏に持ち込んで低温環境での性能と信頼性を改めて確認した。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Daimler Truck AG
ダイムラー、「ゼトロス」を北極で試験
ダイムラー・トラックは2026年3月3日、「メルセデス・ベンツ」ブランドの軍用トラック「ゼトロス」を北極圏で試験したと発表した。
厳しい寒さで知られるフィンランド北部での冬期試験は2026年の年始から実施しているもので、気温はおよそマイナス20度。ほとんどの路面が凍結し、分厚い雪に覆われた環境は、軍用車の耐久性を確認する試験にはうってつけだ。
最近は紛争のニュースを聞かない日がないほどで、それだけに各国が防衛支出を増やしている。自動車メーカーにとって軍用車は成長分野となっており、ゼトロスについてもウクライナやカナダなど寒冷地向けの大型契約が明らかになっている。メルセデス・ベンツ・スペシャル・トラックスの開発チームとしても、冬期の作戦行動におけるゼトロスの信頼性を最も過酷な環境での試験を通じて改めて確認した。
同社のCEOを務めるデニス・キンゼルマン氏は次のように話している。
「リトアニア、カナダ、そしてウクライナなど高緯度地域のお客様は、厳冬期にも安定して稼働する車両を求めています。この需要を満たすため、弊社のトラックを極端な低温環境に持ち込み、その性能を繰り返し確認しています」。
冬季の軍用トラックに求められる性能
凍結路でのトラクションと操縦安定性の確保は何よりも重要で、低温環境での信頼性を保証するため包括的な試験を行なった。ゼトロスとともに民生用のほかのモデルも試験を行なったが、いずれもハンドリングなど全ての技術指標を満たす性能を発揮したという。
コールドスタートも冬季試験の一部で、車両をマイナス40度まで冷却してもエンジンが始動する必要がある。また、氷雪路でのESP(電子姿勢制御システム)の安定性も重要で、滑りやすい路面でもスキッド(横滑り)を防ぎ、グリップを失わず、安定して走行できなければならない。
異なる路面・トラクションの状態での車両の挙動を調べるため徹底したブレーキ試験も行なった。例えば片側のタイヤだけ氷の上や砂利道にある状態について、空積とフル積載で走行し、極端な路面状況での制動能力を確認した。
さらに、ケロシン(灯油)燃料での試験や、積雪時にタイヤの接地面積を増やすためのタイヤ空気圧調整システムなども試験した。
(ケロシンはディーゼルエンジンで燃焼可能だが、軽油とは潤滑性が異なるためオイルポンプやインジェクターを破損する恐れがあり、普通は推奨されない。ただし軍用車では航空機との共通化や寒冷地での凍結防止のため軽油に混合して用いることがある)
加えて、メカトロニクス、ソフトウェア、安全装備、排ガス後処理装置などの試験と調整、エンジンとトランスミッションの最適化、空調とキャブ、外気温が低い状態での補器用ヒーターの利用などの試験も行なった。
なお、ゼトロスのほかに、ウニモグやエコニック、eアクトロス400など、メルセデス・ベンツのほかの商用車も併せて試験を通過したそうだ。
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