排気量420cc、GSファミリーの末弟。この2つの情報だけを並べると、どうしても「ビッグGSの縮小コピー」と思ってしまう。
だがBMWがこのモデルに投入したエッセンスは、まったく違う方向を向いている。新設計の135度位相クランクツイン、クラッチレバーを不要にする新機構「ERC」、そしてKYB製の本格的な足まわり。果たしてその走りはいかなるものか。今回は最上級グレードの「トロフィー」で、オンロードからダートまでを走らせた。
まずは3グレードを押さえておこう。96万1000円から始まるGSの世界
日本仕様のF450GSは3グレード構成。いずれもETC2.0車載器を標準装備し、3年保証が付く。
注目したいのは、ベースグレードの時点ですでに装備が出そろっていることだ。6.5インチTFTフルカラーメーター、フルLED灯火類、グリップヒーター、双方向のシフトアシスタントPro、そしてABS Pro(コーナリングABS)/DTC/MSRといった電子制御が一式。この価格帯としては、装備表を眺めているだけで驚かされる。
■エクスクルーシブ(96万1000円/コスミック・ブラック)
ベーシックにして、すでに十分な一台。ワイドなエンデューロフットペグとブラックのナックルガードを備え、電子制御と快適装備は上位グレードと共通だ。まずGSの世界に足を踏み入れたい、という人にはここで必要十分である。
■スポーツ(98万4000円/レーシング・レッド)
減衰調整機能を備えたスポーツサスペンションを追加したモデル。フォークトップにアジャスターが顔を出し、走り方や体格に合わせてセッティングを詰めていける。足まわりを自分で煮詰めたいライダー向けだ。
■トロフィー(103万3000円/レーシング・ブルー・メタリック)
最上級グレードにして、今回の試乗車。最大のトピックは新機構「ERC(イージーライドクラッチ)」を標準装備することだ。加えてホワイトのフレームとナックルガード、アルミ製スキッドプレートを備え、見た目にも明確な差がつけられている。
なお、ERCはエクスクルーシブとスポーツにもオプションで選択可能。ERCが目当てなら、上のグレードへ行くか下から足すか、予算に合わせて選べるのはありがたい。
420ccの数字を裏切る厚み。135度位相クランクという新しい答え
スロットルを開けた最初のひと転がりで、身構えていた気持ちが崩れる。とにかく、下から厚いのだ。
カタログ上の数値は最高出力48PS/8,750rpm、最大トルク43Nm/6,750rpm。だが体感しているのはそれよりずっと下、街中を流している常用回転域である。2,000rpm付近で2速、3速と繋いでいってもエンジンは嫌な顔ひとつせず、スロットル開度にきっちり忠実についてくる。ドンツキと呼ばれるあの唐突さが、どこを探しても見当たらない。
この気持ちよさの正体が、新開発の並列2気筒が採用する「135度位相クランク」だ。
一般的な並列2気筒は180度か270度。対してF450GSは、1番シリンダーが点火してから225度後に2番、そこから495度後にまた1番という不等間隔の爆発を刻む。狙いは明快で、270度クランクが持つ低回転域のパルス感と、180度クランクが持つ素直な回り方、その両方を一台で成立させることにある。
しかもこのエンジン、単体重量は41.5kgと驚くほど軽い。不等間隔でありながらシングルバランサーで振動を処理できる構成が効いており、その軽さが178kgという車体全体の軽さに直結している。420ccという数字は削られた結果ではなく、味付けのために選ばれた排気量ということなのだ。
この特性は、そのままオンロードでの強さになる。高速道路では巡航速度まで淀みなく伸び、追い越しのたびにシフトダウンを強いられる場面がほとんどない。パワーに余裕があるぶん、長距離を走っても消耗が少ないのはありがたい。
ワインディングに入れば、下のトルクが立ち上がりの速さにそのまま化ける。178kgという軽さと相まって、コーナーからの脱出は驚くほどクイックだ。アドベンチャーというより、よくできた軽量ネイキッドを転がしているような感覚にもなる。
走行モードは「RAIN」「ROAD」「ENDURO」の3つが基本。試乗車のトロフィーにはダート向けの「ENDURO Pro」が加わり、計4モードから選べる。出力特性とトラクションコントロールの介入度がモードごとにまとめて切り替わるため、路面が変わるたびに車体のキャラクターごと着替えられる感覚だ。
クラッチレバーを握らない自由。「ERC」はビギナーのための保険ではない
F450GSを語るうえで避けて通れないのが、BMWが新たに投入した「ERC(イージーライドクラッチ)」である。仕組み自体は自動遠心クラッチ。エンジン回転が2,700rpmに達すると動力が後輪へ伝わり、発進も停止も、クラッチレバーに一切触れることなく完結する。
レバーを握らずに1速へ蹴り込む違和感はあるものの、慣れてしまえば自分のものに。双方向のシフトアシスタントProが組み合わされているため、走行中の変速もこれまでと同じリズムで決まっていく。
本領を発揮するのは市街地とオフロードだ。渋滞にはまっても左手は疲れず、信号のたびにレバーを握り込む動作が積み重ならないだけで、走り終えたあとの残り方がまるで違う。坂道発進も、ダートの駐車場でのUターンさえ、あっけないほど簡単に片づいてしまう。
そして、ここからは正直に書くのだが——筆者はオフロードを得意としていない。ガレ場の登りや細かいターンといった、半クラッチと足つきとバランスを同時に要求される場面は、はっきり言って苦手分野である。エンストして立ちゴケする、あのお決まりのパターンが常に頭をよぎる。
その心配が、ERCによって最初から消えているのだ。「エンストしない」という一点が保証されているだけで、意識のすべてを路面とライン取りに向けられる。左手の仕事が減ったぶんの余裕が、そのまま走りの余裕になって返ってくる。
だからこれは、ビギナー向けの保険ではない。苦手な人には苦手を消す装備として、余裕のあるライダーには走りの質を一段引き上げる装備として効いてくる。乗り込んだ人ほど、この余白のありがたみが分かるはずだ。
オフロードは苦手なはずなのに、上手くなった気になれる足まわり
このバイクで最も強い記憶が残ったのが、足まわりだった。
フロントはKYB製のφ43mm倒立フォーク、リアはリンクレスのモノショック。ホイールトラベルは前後ともに180mmと、このクラスのアドベンチャーとして特別長い数値ではない。ところがダートへ持ち込んだ瞬間、評価が跳ね上がった。
まず面食らったのが、ストローク感である。細かいギャップも、少し大きめの段差も、突き上げの角を丁寧に落としながら、ゆったりと、たっぷりと動く。初期の動き出しに渋さがなく、かといって奥まで一気に沈み込むわけでもなく、ストロークの終わりに向かってしっかり踏ん張る。底付きの気配がないまま「まだ余裕がある」という感覚が続くのだ。
もっと長いストロークのサスペンションを積んでいるのではないか——走りながら本気でそう錯覚し、あとでスペックを見返して二度見したほどである。
調子に乗ってトラクションコントロールをオフにし、コーナーの立ち上がりで思いきりスロットルをひねってみた。
リアはあっさりと流れ出すが、そこから先もしっかりとつながる。こちらの技量に関係なく車体が姿勢を崩さないまま成立してしまうのだ。
先に書いたとおり、筆者はオフロードが得意ではないが、走らせると狙ったラインで立ち上がり、ヘルメットの中でひとりニヤけてしまう。要するに、上手くなった気にさせてくれるのだ!
もちろん実際に上手くなったわけではなく、バイクが下駄を履かせてくれているだけである。だが、その「できた」という手応えが次の一本へ向かわせる「自信」に繋がるのだ。
足つきの良さも書いておきたい。シート高845mmという数字に身構えるかもしれないが、シートとタンク周りが細身なので足がまっすぐ下ろせる。ローシートなら830mm、ラリーシートなら865mmと選べるのもうれしい。
どこまでも遠くへ行けそうで、なのにずっと楽しい一台
アドベンチャーというジャンルには「遠くへ旅をするための道具」という顔もある。積載して、距離を稼いで、目的地へ運んでくれる相棒。それはそれで正しいのだが、道具として優秀なバイクほど、走っている時間そのものは淡々としがち。
F450GSがおもしろいのは、その両方を同時に成立させてしまっている点だ。
14Lのタンクと178kgの軽さ、ETC2.0まで標準装備された充実ぶりを見れば、どこまででも遠くへ行けそうな安心感がある。それでいて、135度クランクの鼓動は流しているだけで楽しく、ワインディングでは軽快に向きを変え、ダートに入れば驚くほど懐が深い。移動が作業にならない。これはかなり贅沢なことだと思う。
そして何より、このバイクは乗り手を選ばない。
ERCがクラッチ操作という最初の関門を消してくれるから、大型に乗り始めたばかりのライダーでも構えずに向き合える。オフロードに苦手意識のある人間にとっては、その苦手意識のほうを先に溶かしてくれる。いろんな意味でハードルの低い1台だ。かといって物足りないわけでは決してなく、トラクションコントロールを切って土の上で遊べば、乗り込んだライダーほど「これはよくできている」と唸るはずだ。ビギナーが安心して踏み出せて、ベテランが本気で楽しめる。この両立は、一朝一夕にできるものではない。
420ccという排気量は、けっして妥協の産物ではなかった。削って小さくしたのではなく、この排気量だからこそ出せる味を狙って作られている。GSというブランドの入口に置かれたモデルでありながら、乗り味の完成度は明確に「本物」なのだ。
はじめてのアドベンチャーを探している人にも、大きなGSを知り尽くしたベテランにも、等しく勧められる。冒険を特別なものにしない——それがF450GSというバイクの本質である。
BMW F450GS(2026)主要諸元
■エンジン形式:水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ(135度位相クランク)
■総排気量:420cc
■ボア×ストローク:72.0mm×51.6mm
■圧縮比:13.0
■最高出力:35kW(48PS)/8,750rpm
■最大トルク:43Nm/6,750rpm
■全長×全幅:2,161mm×869mm
■ホイールベース:1,465mm
■シート高:845mm(ローシート830mm/ラリーシート865mm)
■装備重量:178kg
■燃料タンク容量:14L
■フレーム:スチールチューブフレーム(エンジンをストレスメンバーとして使用)
■サスペンション:(前)KYB製φ43mm倒立フォーク・ホイールトラベル180mm/(後)リンクレスモノショック・ホイールトラベル180mm
■ブレーキ:(前)ブレンボ製4ピストンラジアルマウントキャリパー・φ310mmシングルディスク/(後)シングルディスク
■タイヤサイズ:(前)100/90-19/(後)130/80-17
■電子制御:6軸IMU、ABS Pro(コーナリングABS)、DTC、MSR、ライディングモード(RAIN/ROAD/ENDURO/ENDURO Pro)
■主な装備:6.5インチTFTフルカラーメーター、フルLED灯火類、グリップヒーター、シフトアシスタントPro、エンデューロステップ、ETC2.0車載器/3年保証
■販売価格(税込)
・エクスクルーシブ:961,000円(コスミック・ブラック)
・スポーツ:984,000円(レーシング・レッド)
・トロフィー:1,033,000円(レーシング・ブルー・メタリック)
※ERC(イージーライドクラッチ)はトロフィーに標準装備。エクスクルーシブ/スポーツはオプション
詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
https://news.webike.net/motorcycle/591128/
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