最新の国産自動車は、高性能を強く感じるいっぽう、キャラクターの方向性やサイズ感など、その商品性がグローバル(つまり「日本以外」)を意識したものばかりとなっている。
また、国内でもニーズが限られてしまったクルマは、モデルチェンジで再起を図るのではなく、延命措置や消滅してしまうケースも増えてきた。
かつて日本車は、グローバルを意識しながらもカテゴリーごとに日本車としての独自性や特徴、「武器」を持っていた。そのスタンスがあったからこそ生まれてきたクルマたちもたくさんあった。
今は失われてしまった、そんなコンセプトのクルマたちを振り返りつつ、無理を承知で(売れなかったんだから消えたのだし)、今一度、こういうコンセプトのクルマを出して勝負してくれないか……とお願いしてみたい。
文:大音安弘
■トヨタサイノスみたいな小さくて安いクーペ
コンパクトSUVの台頭により、働く女性に愛されてきた「セクレタリーカー」のカテゴリーから一気に駆逐されてしまったのが「小さなクーペ」というカテゴリーのクルマたち。
まさにサイノスはそのカテゴリーを狙った一台だった。
「友達以上恋人未満」という初代のキャッチコピーだったことからも、頑張る女性の心強いパートナーというイメージが連想させる。
当時は、クーペにスポーティさが重視されていただけに、多くの人にそのコンセプトが理解されていなかったが、しかし一部の女性にとっては嬉しい存在だったに違いない。たぶん。
2代目はコンバーチブルも設定されていたことも懐かしい。こんなに気軽に乗れるオープンカーは、もはや国産車では失われてしまった。
ダウンサイズが進む今、洒落っ気のあるシニア層にも受ける気がするのだが……どうだろう、トヨタさん。
振り返ると日産NXクーペやスズキカルタスコンバーチブル、スバルインプレッサリトナなど、このカテゴリーには個性派が多かったようにも思える。コンパクトクロスオーバーだけでなく、この分野も再び手掛けてみてほしい。
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■スズキツインみたいなミニマムハイブリッド
早すぎた存在といえるのが、スズキのツインだ。このクルマが発売された2003年当時、欧州ではスマートが誕生し、シティコミューターというミニマムなクルマへの関心が高まり出していた。
いっぽう日本では、欧州のAセグ以下の軽自動車という優等生が存在したため、2人乗り+荷室というツインの意味が理解されなかった。
驚異的な取り回しの良さを実現するために、全長は2735mmとし、最小回転半径は国内最初の3.6mを実現。どこでもスイスイなクルマだった。
最も驚きを与えたのは、軽自動車初のハイブリッドシステムを用意していたこと。仕組みは異なるが、この経験がエネチャージなどスズキ独自のハイブリッドシステムに繋がっていったのだろう。
もっと驚いたのが、ガソリン車の価格。なんと5速MTながら49万円という低価格。この点もスズキらしい。
軽を超えるミニマム車。今こそ需要があると思うのだが、スズキさんどうですか。
日本でベンチャーなどが挑むミニマムEVなどは、自動車という見方をすると心もとない。今こそ、ツインのような自動車らしいシティコミュニケーターの復活に期待したいところだ。
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■スバルアルシオーネSVXみたいな水平対向6気筒GT
海外ではまだまだニーズの高いパーソナルクーペだが、国内市場からは駆逐されてしまった。豪華なだけでなくハイテク満載という点は、ジャパンGTの看板のひとつで、かつては各社共に独自性の強いGTを揃えていた。
その中でもユニークだったのが、アルシオーネSVXだろう。
3.3Lの水平対向6気筒エンジン、AWDシステム、パーソナルクーペなどなど、あのクルマを彷彿させる。そう、ポルシェ911だ。当時「バックすれば911」なんてジョークも飛ばされたものだが、その裏には、雲の上の911に最も近い存在としてのリスペクトもあったと思う。
水平対向エンジン+AWDは、インプレッサやレガシィなどでもスポーツ性を強調できたが、GTとして世界に胸を張れるのは、やはりアルシオーネSVXだ。なにしろこれだけ個性的なユニットが、ジョルジェット・ジウジアーロがデザインしたボディに収まっていたのだ。それは初代NSXの心臓を持つレジェンドクーペも似た存在といえるだろう。それが「バージョンE」なら333万3000円で買えた。
いうまでもなく、昨今の日本車のレベルは、高い。だからこそ、日本ブランドのGTに乗ってみたいのだが。それを唯一叶えてくれるのはレクサスだけ。ただもっと日本車らしいテイストのGTが欲しい。
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