1980年代末から2000年代初頭にかけての約10年、日本自動車市場で「ハイパワーワゴンの時代」が出現した。いや正確にはその時代はスポーツクーペもスポーツセダンもハイパワー化していたのだが、なぜかワゴンがめちゃくちゃ目立っていたのだ。
2000年代中盤からこの「ハイパワーワゴン市場」が急速にしぼんでいったからこそ、あの頃を振り返ると「なぜハイパワーワゴン市場があんなに盛り上がっていたのか」と不思議に思う若者も多いのではないか。
便利だったんです。でも今考えると、ちょっと盛り上がりすぎだったのではないかとも思います。
そんなハイパワーワゴンの時代をザッと振り返ってみます。
文:大音安弘
■ワゴン市場の火付け役はやっぱりスバルのあのモデル
ハイパワーワゴンブームの火付け役は言うまでもなく、1989年のスバルレガシィツーリングワゴンの登場だ。
トップグレードGTには、セダン同様の最高出力200psの水平対向4気筒ターボを搭載。スバルお得意のAWDとの組み合わせは、高い走行性能を実現した。
それまでのステーションワゴンは、商用バンの延長上のクルマという概念を覆し、ツーリングワゴンは走りも楽しめるワゴンというイメージを作り上げた。実は、3代目レオーネにもターボエンジンを搭載した1.8GTターボを設定。こちらは3速ATのみとその名の通りGT的なグレードだったが、スバル自身が4WDスーパースポーツと謳うなど、その方向性がここで昇華したといえる。
折よく当時はアウトドアブームが花盛りとなり、走行性能と積載性を両立させたハイパワーワゴンが数多く出現した。
しばしは新たなカテゴリーを創出したレガシィツーリングワゴンの一人勝ちが続く。しかし、他社がその状況に指をくわえて見ているわけもなく、90年代半ばにハイパワーワゴン対決へと繋がっていく。
以下、その名勝負を支えたハイパワーワゴンたちを紹介したい。
■スバルレガシィツーリングワゴンGT-B(2代目)
1996年は、日産ステージアや三菱レグナムといった2.5Lターボエンジンを搭載するミッドサイズワゴンがライバルとして出現するが、それよりも一足早く2代目レガシィツーリングワゴンは改良が加えられ、後期型へと進化。
その際に投入された新グレードが、その後の高性能グレードの代名詞となるGT-Bだ。
エンジンも進化され、5速MT仕様は自主規制枠となる280psを発揮。4速AT仕様は260ps仕様のままであったが、どちらも足元には、鮮やかなイエローが存在を主張するビルシュタイン製ダンパーを採用していた。
ここから水平対向ターボエンジンとビルシュタインの組み合わせが、スバル高性能モデルのひとつの定番となった。ビルシュタインサスは好評で、250T-BやTSタイプRBリミテッドなど自然吸気仕様のスポーティな限定車にも採用された。
因みに、2代目の前期型には、GT Bスペックと似た名前のグレードがあるが、こちらは独自のスポーツサスペンションとBBSホイールを組み合わせていた。
■トヨタカルディナGT-FOUR
カリーナサーフの後継として誕生したカジュアルなステーションワゴンのカルディナは、レガシィのスポーツ性能を意識し、初代の後期型では、セリカのスポーツツインカムを搭載したTZ-Gを投入するが、ハイパワーワゴンの土俵に乗るのは、1997年登場の2代目からだ。
セリカGT-FOUR同様の3S-GTE型2.0L4気筒ターボと4WDを組み合わせた「GT-T」を設定。ボンネットにインタークーラー用のエアインテークが設けられるなど、見た目からも差別化。まさにカルディナGT-FOURと呼ぶべき存在で、パワーもレガシィを意識してか、セリカを5ps上回る260psを発揮。5速MTも選択できた。
その方向性を極めた3代目では、設計段階からよりスポーツ性能を意識。ターボモデルは名称をずばりGT-FOURへと進化。ニュルの名を冠したGT-FOUR Nエディションも設定され、専用ものチューブダンパー、パフォーマンスロッド、レカロシート、スポーツABS、トルセンLSDなどを標準化。唯一4速ATのみだったのが、惜しいところ。
この異色のレガシィイーターは、残念ながら3代目で生産を終了してしまった。
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