乗り心地は、ドライバーだけでなく同乗者にとっても重要な車の要素。「良い乗り心地」とは、いったい何を示すのか? 本記事では乗り心地の定義も解説しつつ、コミコミ300万円以下で買える乗り心地優良車を、さまざまなカテゴリーから選出。近年では乗り心地に影響を与える車作りの「哲学」も、ひと昔前と大きく変わってきている。
文:松田秀士/写真:編集部
良い乗り心地の「定義」に変化
近年「乗り心地」の良い車という定義が大きく変化している、と思うのだ。
その昔、日本の道路は凸凹、継ぎ接ぎがひどかった。しかし、多額の自動車税収による道路行政や終わらない高速道路の料金徴収のおかげで、日本の道路は世界の中でも1、2位を争うほど整備されている。
車の方では、その昔はボディも脆弱でサスペンションを柔らかく、シートもフワフワにして乗り心地を演出していたが、そんな車でも今の道路を走ればすこぶる良い乗り心地といえる。
しかし、これだけ道路が良くなったのだから、もっとハンドリングに特化した味付けにしたい。
乗り心地はサスペンションをソフトにすれば良くなるが、ハンドリングは逆にハードにした方が(特に高速域では)良くなる。ハンドリングを最低限押さえたうえで、乗り心地とバランスさせよう。というのが現代の車の乗り心地だと考える。
つまり、ハンドリングがスカスカだったりする車は、乗り心地も悪いのだ。
SUVは乗り心地に不利なのか?
で、現代の車はプラットフォームを共通化するモデルが非常に多い。プラットフォームを量産化できるので、コストダウンが図れる。メーカーによっては一つのプラットフォームを多少の手直しで全車種に展開していることもある。
プラットフォームが同じであればサスペンションのボディへの取り付け位置も同じ。サスペンション型式も同じ(例外はあるが)。同じプラットフォームを使用してセダン、ハッチバック、SUVなどを作り上げるのだ。
そうするとSUVは車高が30~40mmも高いのでサスペンションは垂れ下がることになる。もちろん、そこをスペーサーなどで極力他の車種と差のないように詰めているが、詰め切れないモデルも存在する。
床下を覗いてロワアームが極端に「ハ」の字になっていることもある。伸び側のサスペンションストロークが短くなるので、コーナリングでのロール角(車が横方向に傾く角度)は少なくなるが接地性は宜しくない。
さらに「ハ」の字のロワアーム・サスペンションが縮むとき、ボディへの入力が、突き上げる方向から始まるので衝撃も強くなる。セダンなど車高の低いモデルなら「ハ」の字が末広がりになるのでスムーズに吸収できるわけだ。
サスペンションをスムーズに動かす工夫やゴムブッシュ類の硬さをベストにし、共振しないボディ造りによってSUVでもそれほど乗り心地を悪化させないようメーカーは苦心している。
また、設計段階からSUVも含めたデザインを行うことで、車高の違いがあってもベストな乗り心地とハンドリングが保てるように図面を引いている。これ、言い換えればどっちつかずなのである(どちらも犠牲にしている)。だから、S660のように専用プラットフォームのモデルは素晴らしい。昔の車も専用が多かった。
さて、ここからは300万円以内というくくりで、実際に乗り心地の良い車を紹介していきたい。
ともに“よく動く足”を持つトゥインゴとシビック
まずコンパクトカーではルノー トゥインゴを挙げたい。RR(リアエンジン・リア駆動)という個性的レイアウト。後ろにエンジンがあるからポルシェのように高速になればなるほどに室内静粛性が高まる。静けさも乗り心地の一つだ。
リア駆動なのでド・デオン式という、左右が繋がったリアサスペンションを採用。しかし、デフを分離しているのでストローク量が十分にあり、しかもバネ下重量が軽い。
サスペンションはソフトだが、ハンドリングもかなり良い。このクラスでは素晴らしい乗り心地だ。ただし、後発のGTは乗り心地よりもハンドリング方向だ。
Cセグでは最新のシビック・セダンが良い。フロント・ストラット式/リヤ・マルチリンク式のサスペンションで、サスペンションストロークが十分にあり、ソフトだが腰のある足さばきだ。
もう1台、プジョー308は昔のプジョーのイメージほどソフトではないが、他のメーカーにはない部分的ソフトで独特の心地よさがある。
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