日々進化を続ける交通取り締まり。昨今の自動車の技術進化や道路構造の変化、IT化の波によって、その手法や傾向も大きく変わっています。本稿ではそんな交通取り締まりの変わり具合、それも最近話題となった「移動オービスの配備状況」や、コロナ禍による運用の影響などを調査しました。
文/加藤久美子 写真/オービスガイド、加藤博人、AdobeStock
【画像ギャラリー】ついに全県導入! 交通取り締まりの新手法「移動式オービス」を画像でチェック
■最後の1県である「新潟県警」のオービス導入が明らかに
どこにでも持ち運びができて1~2名の警察官で取り締りが可能。時間も場所も選ばず神出鬼没の移動式オービス(可搬式オービス)は、2016年3月に埼玉県警で運用が始まり、全国の警察で配備が進められている。
2020年4月時点では新潟、茨城、徳島、山口、熊本、鹿児島、沖縄を除く40都道府県に導入されていたが、この2021年6月、ついに最後の移動オービス未導入県であった新潟県でも9月以降に試験運用されることが明らかになった。
これにて47都道府県すべてにおいて、移動オービスによる速度取締りが行われることになる。
ちなみに、新潟県は一度、2020年度の一般会計予算で移動オービスの費用1100万円が認められていたにもかかわらず、その後の県議会において一般会計当初予算案から減額する修正案が賛成多数で可決され減額(=オービス購入の予算を認めない)されることが決まっていた。
今年6月の発表によって移動オービスの購入が返り咲いたことになる。ただし、あくまでも「試験運用」ということで、複数の通学路や生活道路にて移動オービスと従来の警察官による取り締まり(ネズミ捕り?)の結果を比較して最終決定がされるようだ。
このように、全国各地で導入が進む移動オービスだが、そもそも移動オービスは従来の固定オービスやネズミ捕り方式の取締りと何が違うのだろうか。簡単に説明すると以下となる。
●固定式オービス
高速道路や自動車専用道路、幹線道路などに設置されている固定式の速度違反自動取締装置。速度違反のクルマをキャッチするとカメラでナンバーとドライバーが撮影され、後日ナンバープレートに登録された住所のところに通知が送られてくる。
設置されて数十年が経過しているものもあり、ドライバーに場所が特定されていることや老朽化による不具合なども多発して全国で撤去が進んでいる。撤去後は移動オービスに切り替えて取り締りを行うケースが多い。
●ネズミ捕り方式(定置式速度取締り)
一般道路で行われる昔ながらの取締り方法。定置式にはレーダー式と光電式、レーダーパトカーによる方法がある。速度を計測する係、クルマを停止させる係、通称「サイン会場」に引き込む係、取り調べをする係など最低でも警察官4-5名が必要で大掛りな取締りになる。クルマを引き込むための駐車スペース&サイン会場も必要なので、場所が固定化されやすい。
●移動オービス(可搬式オービス)
本来は「通学路や生活道路での取り締まり」を強化するために開発された。いくつかの種類があるが、東京航空計器のLSM-300/310などコンパクト(といっても20-30kgはある)で持ち運びが容易なタイプが主流。固定式オービスとネズミ捕りの「いいとこどり」をした方式で、場所を取らず、1-2名の警察官で運用が可能なことから、全国で導入が進んでいる。
■移動オービス導入の、そもそもの目的は?
移動オービスは首都高や阪神高速など、コロナで交通量が減った都市高速を暴走する「ルーレット族」や「環状族」への取り締りが話題になっているが、本来は「生活道路での取り締まり」を強化するために開発された。
速度違反車の写真を撮って後からナンバーに登録された住所に送付する方式のため、制限速度30キロの「ゾーン30」など、繁華街や住宅街を通る狭い道路などでの取り締まりも簡単に行うことができる。
自転車や歩行者との接触事故を防止する目的があるため、これまでにはあまりなかった低い速度での速度超過も取り締り対象としている。その結果は警察庁が発表する「最高速度違反」の取締り件数にもよくあらわれている。
警察庁が発表した令和元年の取締りデータによると、速度20キロ未満~速度50キロ以上はすべて、平成30年に比べてすべての速度帯でマイナスとなっているが、「速度15キロ未満」がなんと43件から340件と約8倍も増加した。
母数は少ないが、これまでほとんどゼロに近かった「15キロ未満」でも、最高速度違反として取り締まられる可能性が出てきた、ということになる。
超過速度15キロ未満ということは、最高速度30キロの道路を40キロ少々で走っていても取締り対象となるわけだ。何とも恐ろしい。
しかし、この状況もコロナ感染拡大によって令和2年は少し変わってくる。
人々の外出が少なくなり、生活道路を歩く人の姿も減った。これに対して交通量が減った首都高速や阪神高速など都市高速で繰り返される「暴走」が急増した。ルーレット族や環状族と呼ばれる都市高速の暴走車両を取り締まるために、移動オービスは生活道路から都市高速に移動したようだ。その結果が以下の数字に表れている、
令和2年中では速度20キロ未満~30キロ未満が増加し、令和元年に急増した15未満は4割減となっている。
いっぽう速度50未満~50以上が減っているのも興味深い。都市高速での取り締まりが急増したとはいえ、ルーレット族や環状族は、そうそう簡単に移動オービスの餌食はならないということだろう。
おそらく都市高速を爆走する走り屋は超過速度50キロ以上など平気で出しているはず。つまり事情を知らないフツーのドライバーがうっかり速度を出して移動オービスで捕まっている可能性が多いと考えられる。
■阪神高速に登場した「半固定式移動オービス」とは
首都高速では昨年4~5月頃からコロナ禍で増えた「ルーレット族」を取り締まる目的で、C1(都心環状線)や辰巳第一PA近辺やその先の9号線などで移動オービスによる取り締まりがたびたびおこなわれるようになった。
とはいえ、C1は1周してもわずか14.8kmしかなく、非常駐車帯も狭いので、神出鬼没の移動オービスも設置できる場所は限られている。SNSなどでの情報網によって取締り情報もすぐに拡散されてしまうし、精度の高いレーダー&レーザー探知機で事前に情報をキャッチすることが可能だ。
このような状況の中、最近では探知器では探知できない「光電管式」での取り締まりも増えつつあるという。
いっぽう、「環状族」で有名な(?)阪神高速はどうかというと、こちらは今年春から「半固定式移動オービス」と呼ばれる新たな移動オービスがお目見えした。
これはこれまでにないまったく新しいタイプのオービスで、筆者も今年4月に阪神高速に設置されたのを目撃している。
アプリ『オービスガイド』を主宰する有限会社パソヤの大須賀克巳代表からの情報によると、この半固定式移動オービスとは、土台(電源や配線、オービス本体をガードする金属でできた頑丈な箱)+移動オービス(カメラと速度計測装置)で構成されている。
阪神高速道路上にある複数の場所(非常駐車帯など)に土台を設置して、計測&撮影機能のある移動オービス本体を随時、複数場所にある土台を移動させながら速度取締りを行うというもの。
首都高での移動オービスは取り締りをしていることがすぐにわかるが、半固定式の場合は土台が複数場所に置かれていてその中にオービスが入っているかどうかはかなり近づかないとわかりにくい。
実際、運用が始まってから神戸線、池田線、環状線と1-2週間ごとに場所を移動させながら取締りが行われている。なお、中に入っているオービス本体は従来のレーダー探知機では探知されにくい東京航空計器のLSM-310の可能性が高いという。
コメント
コメントの使い方