【ついに到来】高速道路120km/h時代に必要なもの

【ついに到来】高速道路120km/h時代に必要なもの

 日本初の高速道路、名神高速が開通して54年が経過した今年11月1日、その制限速度がついに引き上げられた。
 警察庁交通局交通企画課によれば、実施されたのは設計速度が120km/hの「高規格道路」に当たる新東名高速の新静岡IC~森掛川IC間(上り線約49.7km、下り線約50.1km)。
 あくまで社会実験として、制限速度が100km/hから110km/hに引き上げられた。そして今回の社会実験での結果をふまえ、静岡県公安委員会が順次、速度を段階的に引き上げて対象となる速度や実施区間などを拡大していくことになるという。
 注意が必要なのは、今回の速度引き上げが適用されるのは従来までも100km/hが制限速度だった「普通車のみ」ということ。トラックなど80km/h規制車は今までどおり(同区間でも)制限速度は80㎞/hとなる。具体的には、80km/h規制のクルマは当該区間は走行車線の左端、「第一通行帯」のみの通行とするようだ。
 また、110km/h区間が終了した地点には100km/h区間に切り替わることを明確に示す標識を設置することでドライバーへ注意を促すことにしている。
 さらに、新東名に続いて東北自動車道花巻南IC~盛岡南IC間(約28㎞)でも岩手県警で試行開始時期を検討中で、こちらは新東名から1カ月遅れとなる12月1日からスタートする。
 いよいよ迫り来る「高速120km/h時代」。制限速度が20%増となることで何が変わるのか? そして何が変わらないのか? 高速道路事情に詳しいジャーナリスト、清水草一氏に伺った。
文:清水草一


■つまり、何も変わらない。ガクー!

 高速道路の最高速度120km/h時代。我々ドライバーが注意すべきことは、現実的には「警察によるスピード取り締まりに気をつけよう」だ。

 なにしろ、最高速度が引き上げられる2区間では、間違いなく取り締まりが強化される。日本の高速道路での速度取り締まりは、20km/hオーバー以上を対象にしていた面が濃厚だが、引き上げ区間ではその法則は通用しないはず。

 つまり、実際の走行は、最高速度が100km/hの区間と同じようにしないとマズい。つまり、何も変わらない。ガクー! である。

 警察庁としては、最高速度を引き上げた区間で事故が増えたらメンツ丸つぶれ。力ずくでも抑え込むはずだ。我々ドライバーとしては、「110」の看板を見たら文字どおり110番を思い出し、むしろ集中力を研ぎ澄ます必要がある。

 集中すればそれだけで事故は減る。結果的に速度引き上げ区間では事故は減少し、警察庁のメンツは完璧に保たれ、120km/hへの引き上げにGOサインが出る……という流れが予想される。

 ただ、5年後10年後も同じ取り締まり体制が取られるかどうかはわからない。よって、いずれは追い越し車線の平均速度が、20km/h近く上がる可能性もある。

11月から新東名で、12月から東北道でまずは最高速度制限110km/hに引き上げ開始
11月から新東名で、12月から東北道でまずは最高速度制限110km/hに引き上げ開始

■「腹を立てるドライバーが増える」というリスク

 いっぽう、大型トラックのスピードリミッターは90km/hのままであり、速度差が広がり、それだけリスクは高まる――と考えるのが自然ではある。

 しかし私は、それに関しても心配はしていない。今回の引き上げで、大型トラックと一般車両との最高速度差が20km/hから30km/hになるため、新東名の片側3車線区間(上り線2区間、下り線2区間)では、大型トラックなどの通行帯を指定する交通規制が実施され、基本的には一番左側の車線を走らなくてはならなくなる。

 これが忠実に実行されれば、速度差の拡大によるリスクは逆に低くなる。これに関する取り締まりも強化されるだろうから、ある程度の効果は期待できる。

 しかし、はっきり言って渋滞中の脇見や居眠りを除き、低速で走行する大型トラックに追突する乗用車などほとんどない。

 乗用車のブレーキ性能は、その程度の速度差はまったく問題にしないし、反応速度が衰えた高齢者が、最高速度が上がったからといってガンガン飛ばすというのも考えにくい。

 例えばドイツのアウトバーン。速度無制限区間であっても、トレーラーの最高速度は80km/hだ。そこにはものすごい速度差がある。あちらでは通行帯規制が厳格なので、トレーラーが追い越し車線に出てくることは滅多にないが、速度差が猛烈に大きいことは間違いない。

 しかし、アウトバーンでの死亡事故発生率は2010年の統計では日本の高速道路とほぼ同水準となっている。

 つまり、最高速度の引き上げで増すリスクは、「特にない」というのが私の予測だが、あえて言うと、追い越し車線に割り込んできたクルマに腹を立てるドライバーが増え、それが原因のトラブルが増加する可能性はある。

■必要なのは「アウトバーン的な姿勢」

 アウトバーンの追い越し車線を走っていると、こちらがかなり飛ばしていてもわりと平気で割り込んでくるクルマが多い。それに対して追い越し車線を飛ばしてきたクルマは、激しいパッシング→後ろにぴったりついてアオる→相手のクルマが速やかに車線を譲る、といったことが日常茶飯事なのだ。緊張感は猛烈に高い。

 この緊張感が事故の発生を抑えている面も大いにあるのだが、特筆すべきはそういったことがまったくふつうに行われていて、それを根に持つドライバーはいないということだ。

 つまり、最高速度の引き上げとは無関係に、「失礼だ」とか「ムカついた」とかいった感情を持たず、追い越しのために割り込むのは相手の正当な権利として認識し、それで減速するのはこちらの義務、アオられたら車線を譲りましょうと、アウトバーン的に割り切る姿勢を我々はぜひ持ちたいものである。

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 速度取り締まりが強化され、トラックと普通車との「走り分け」が進むことで「特に変わらない」という清水氏の予測には説得力があった。それだけに文末の(昨今取り沙汰されている)「あおり運転」の恐怖が広まるかもしれない、という予測が恐ろしい。

 制限速度120km/h時代には、ぜひとも120km/h時代なりのマナーと姿勢と心構えも広まってほしい。